京橋・宝町法律事務所

法曹界の「業界用語」

「ザギンでシースー」(銀座で寿司)とは「放送界」の業界用語でしょうか??

「放送界」と読み方は同じ「法曹界」とは,私たち弁護士や裁判所,検察庁の業界のことですが,この「法曹界」にも,「ザギンでシースー」ほどではないものの様々な「業界用語」があります。本コラムでは,わが法曹界における「業界用語」をいくつかご紹介したいと思います。

法曹界の「業界用語」あれこれ

「被告」(ひこく)

「被告」という言葉自体は皆様もご存知かと思いますが,マスコミ報道では,刑事事件における「被告人」のことを「○○被告」と言いますので困ったものです。「被告」と「被告人」とでは法律上は意味が異なり,単に「被告」というときは,民事裁判における「訴えられた人」のことです。すなわち,民事裁判では訴えた人を「原告」訴えられた人を「被告」といいます。ただ,マスコミ報道のおかげで,「被告」というと「悪い人」挙げ句には「犯罪者」と誤解される方が多いので,呼び方には注意しなければなりません。

「事件」(じけん)

これも報道では「犯罪事件」の意味で用いられますが,法曹界では,単に「案件」のことを指す言葉です。殺人事件,強盗事件ももちろん「事件」ですが,民事や家事の案件もすべて「事件」であり,「貸金返還請求事件」「建物明渡請求事件」「夫婦関係調整調停事件」(いわゆる「離婚調停」のこと)などと言ったりします。

「陳述(ちんじゅつ)します!」

民事裁判の法廷において多用する言葉です。民事裁判の法廷では,事前に提出されている「訴状」や「答弁書」「準備書面」といった書類を逐一読み上げることは通常ありません。これらの書面について単に「陳述します!」とだけ述べればそれで全部を読んだことになります。誠に便利な(?)言葉です。例えば,第1回目の裁判の日には,裁判官から「原告は訴状を陳述されますね?」と聞かれますので,その時はすかさず少し立ち上がって「陳述します!」と答えればOKです。もっと簡略化して,裁判官が「では,原告は訴状陳述!」と言い,原告が「はい」とだけ答えて終わることもあります。

「期日」(きじつ)

裁判所で手続が行われる「日」のことです。「口頭弁論期日」「弁論準備手続期日」「公判期日」「調停期日」などなど,色々な「期日」があります。

「差し支え」(さしつかえ)

法廷の場で,次回の「期日」を決める場合に,裁判官から日程候補が提示されますが,すでに他の予定がある場合は「差し支えです!」と答えます。ということで,弁護士は,裁判に限らず,飲み会でも何でも,なにか予定を決めるときに先約がある場合は「その日は差し支えで・・」とつい答えたりします。

「請書」(うけしょ)

正確には「期日請書」と呼ばれる書類です。法廷の場で次回期日が「差し支える」ことなく決まれば,それでOKですが,第1回目の口頭弁論期日や公判期日を決める際など電話等で調整し期日が決まった場合は,この「期日請書」を裁判所にFAXしなければなりません(民事訴訟法94条2項等)。出し忘れは厳禁です。

「遺言」(いごん),「競売」(けいばい),「兄弟姉妹」(けいていしまい),「没取」(ぼっとり)・・

いずれも読み方が特殊という言葉です。このうち「没取」は,刑事事件において被告人が「保釈」された際に納付した「保釈保証金」につき,被告人が逃走等をしてしまったため戻ってこない場合のことですが,「ぼっしゅ」と読むと「没収」(「没収」は刑罰の一つ)と混同するので,あえて「ぼっとり」と読みます(似たケースとして「科料」を「とがりょう」,「過料」を「あやまちりょう」と読みます)。他方,「いごん」「けいばい」「けいていしまい」は何故そう読むのか,よく分かりません・・

J,P,B

「J」とは裁判官(=Judge),「P」とは検察官(=Prosecutor),「B」は弁護士(なぜBかは諸説あります)のことです。「あのJは優しい」とか,「今日はP庁へ記録の謄写に行ってきます」などと使います。

「起案」(きあん)

文書を作成することです。「今日は準備書面の起案をする」「明日までに契約書を起案しないと・・」などと使います。

「赤い本」(あかいほん)

赤本というと,大学別の入学試験過去問を収録した本が有名ですが,法曹界では,そちらではなく,交通事故の際の損害賠償額の基準が書いてある本(正式には「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」というタイトルです)のことを指します。表紙が赤いため「赤い本」と言われます。交通事故に限らず,民事の不法行為に基づく損害賠償請求事件を扱う際には,必須の本となります。ほかにも「青い本」(日弁連が出している同趣旨の本),「緑の本」(過失相殺の割合が載っている「別冊判例タイムズ」)もあります。

「郵券」(ゆうけん)

郵便切手のことです。「郵便切手」あるいは「切手」とそのまま言えばいいのに,「郵券」と言います。民事裁判や家事調停等を提起する場合には,被告や相手方に書類を送るため,裁判所が予め定めた組み合わせ・額の郵便切手を納める必要があります。これを「予納郵券」といいます。しかし,郵便局では通じないので普通に「切手」といいます。

「縷々」(るる)

難しい漢字ですが「こまごまと」という意味です。ただ,ネガティブな文脈で使用することが多いです(「その他原告は縷々主張するが,いずれも独自の見解であって採用することはできない」といった感じで。)。なお,最近は「縷々」という漢字が難しいので「るる」と平仮名で書くことも多いです(なんかカワイイと感じるのは私だけ?)。ちなみに,この「縷々」の意味について,業界用語としての意味を解説してくれている最高裁判決があります (最高裁平成9年4月2日大法廷判決の可部恒雄裁判官反対意見)。「訴訟において関係人の陳述を指して・・・何々である旨縷々陳述するが・・・と評することが多いが、縷々とは細く長く絶えず続くことの意味である。」。

「けだし」(漢字では「蓋し」)

一般的には「蓋し名言である」(考えるに名言である)といった形で使いますが,法曹界では「なぜならば」の意味で使います。もっとも,平成10年くらいまでの最高裁判決には確かにこの「けだし」がよく出てきましたが,最近はあまり使われなくなっています。

ということで,まだまだ色々な用語があるのですが,この辺りで止めておきます。もとより,ご依頼者やご相談者の方にいきなりこういった「業界用語」を使うことは厳禁であり,言葉を言い換えて説明するように気をつけておりますが,つい使ってしまうこともありますので,その際はご遠慮なくご質問下さいますようお願いいたします。

(文責:梅本 寛人

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