京橋・宝町法律事務所

KYOBASHI TAKARACHO PARTNERS

アイドルの恋愛禁止と法律

報道等によりますと,去る1月18日,東京地裁は,アイドルだった女性が規約上ファンとの交際を禁止されていたにもかかわらずこれを破って交際したため所属芸能プロダクション会社が約990万円の損害賠償を求めた事案につき,芸能プロダクション側の請求を棄却(すなわちアイドルが勝訴)する判決を言い渡しました。

判決書が現時点では公表されていないため,理由の詳細は不明ですが,報道では「ファンはアイドルに清廉性を求めるため,交際禁止はマネジメント側の立場では一定の合理性はある」と規約について理解を示す一方「異性との交際は人生を自分らしく豊かに生きる自己決定権そのものだ」とも指摘し,損害賠償が認められるのは,アイドルが会社に損害を与える目的で故意に公表した場合などに限られる,と判断したとのことです。

このケース,皆様はいかがお考えでしょうか?

以上の報道内容を前提に法律論から述べますと,おそらく,判決は,
①プロダクション会社とアイドルとの間で合意されたいわゆる”恋愛禁止条項”自体については無効とはせず,
②ただし,アイドルの自己決定権を侵害する側面があるので,恋愛禁止条項を根拠に損害賠償請求をなしうるのは限定的な場面(アイドルが会社に損害を与える目的で故意に公表した場合)に限られる
という論理を組み立て,本件では,アイドルが会社に損害を与える目的で故意に公表した場合ではないので,会社の請求は認められないとしたものと考えられます。

このように損害賠償請求の根拠となる条項の有効性は認めつつ,その条項違反が直ちに損害賠償を認めることにはならない(損害賠償請求が認められるためにはさらに高いハードルの要件をクリアする必要あり)というのは,裁判例でもときどき見かける論理構成です。

では,判決は,なぜ損害賠償請求が認められる場合を以上のように限定したのでしょうか?

それは,報道にもあるとおり,「異性との交際は人生を自分らしく豊かに生きる自己決定権そのものだ」という価値判断を裁判所が行ったためです。「自己決定権」という言葉から法律家なら皆ピーンと来るのが憲法13条から導かれる人権としての「自己決定権」です。誰にも束縛されず自由に恋愛を行うことは,まさに憲法にいう自己決定権の範疇に属する行為ですから,「最大限の尊重」を有するということです。

他方で,芸能プロダクションからの反論としては,「”アイドル”とはまさに「偶像」。清廉さが強く求められる特殊な地位だから,その地位の特殊性からして制限も認められるはずだ」「アイドルはファンすべてのもので,特定の男性(女性)に独占されることを意味する恋愛はアイドルになじまず,イメージダウンとなって企業経営上も看過できない事態となる」といったところでしょうか。このような特殊性を有するアイドルをマネイジメントしていく芸能プロダクション会社の営業の自由も,もちろん憲法上の人権としての「営業の自由」(憲法22条1項)に根拠づけられるといえなくもありません。

こうして,どちらの言い分が正しいか,裁判所は双方の言い分と証拠を比較考量して判断しなければなりませんが,前記のとおり,アイドルの自己決定権に重きを置き損害賠償請求が認められる場合を限定して,本件に現れた事情では損害賠償請求は認められないと結論したものと考えられます。

判決書の詳細が不明なために,判決の論理構成を断定はできないのですが,以上のような論理構成であるとすれば,本判決を一般化し「裁判所はアイドルの恋愛禁止を不当とした」とか「アイドルは自由に恋愛して良いと裁判所は認めた」と断言することはできません。損害賠償請求が認められるかという場面において,本件での事情を前提とすれば,それはできない,と述べたにすぎません。

本件は,「アイドル」という特殊性を有する者に関する事例のため,労務管理に関して教訓になる部分は少ないかも知れませんが,やはり,従業員に対する会社の業務外での私生活上の行為に関する規制については,慎重に対処すべきものといえるでしょう。特に,あまり想定できませんが,例えば恋愛や宗教活動等の個人の自己決定権,精神的自由権に関する事項については,規制自体認められない場合もあると思われます。

(文責:梅本 寛人

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