京橋・宝町法律事務所

同一労働・同一賃金に関する判例

同一労働・同一賃金に関する判例

最近よく聞く「働き方改革」。その関連法の成立前ではありましたが、最高裁判所は、本年6月1日、正社員と非正規社員との待遇格差に関して2件の判決を言い渡しました。この判決は、大きく報道されたこともあり、ご存知の方も多いかと思いますが、働き方改革のキーワードである「同一労働・同一賃金」とも大きく関連し、実務上も重要な意義を有する判決ですので、本コラムでは、この判決の内容についてご紹介したいと思います。

この日、最高裁で言い渡された判決は2つあり、それぞれ「ハマキョウレックス事件」「長澤運輸事件」との名前(通称)がついています。ちなみに、労働関係の裁判では、このように使用者側の会社名をとって名前が付くことが多いです(労働関係の判例を調べればすぐ分かりますが、名だたる会社が沢山出てきます。)。

ハマキョウレックス事件

原告(X1)は、平成20年10月に被告会社(Y1)と有期労働契約を締結し、契約社員として、トラックの運転手として配送業務に従事していました。

Y1においては、正社員と契約社員との間で労働条件(諸手当等)につき、以下のような差異が設けられていました(なお、ほかにも差異はありましたが最高裁で判断された項目に絞っております)。

項目正社員契約社員最高裁の判断
無事故手当1万円なし
作業手当1万円なし
給食手当3500円なし
通勤手当距離に応じて最大5万円3000円(固定)
住宅手当2万円なし
皆勤手当1万円なし

X1は、正社員と契約社員とでこのような差異があるのは不合理な差別であり労働契約法20条に違反するとして、Y1に対し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認、正社員が通常受給するべき賃金との差額の支払い等を求めて提訴しました。

1審(大津地裁彦根支部)は、通勤手当の差異は労働契約法20条に違反するが、その他の手当の差異は違反しないと判断しました。

控訴審(大阪高裁)は、通勤手当のほか、無事故手当、作業手当、給食手当についての差異も違反すると判断しました(住宅手当の差異は適法)。

そして、最高裁は、上記の表のとおり、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当の差異も違反するし、加えて皆勤手当の差異も違反すると判断しました。

最高裁は、以上のように判断した理由として、概ね以下のように述べています。

まず、労働契約法20条の趣旨については「(労働契約法20条)は、有期契約労働者については、無期労働契約を締結している労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。」とし、皆勤手当について「(会社)が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ、・・乗務員については、契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから、出勤する者を確保することの必要性については、職務の内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。また、上記の必要性は、当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や、(会社)の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。」などとして、皆勤手当についての正社員と契約社員との差異は労働契約法20条に違反すると結論づけました。

長澤運輸事件

原告(X2。3名います)は、被告会社(Y2)の正社員でしたが、定年退職後、有期労働契約を締結し(いわゆる再雇用)、嘱託社員として、定年前と同様乗務員としての仕事を行っていました。労働条件(諸手当等)につき、以下のような差異が設けられていました(なお、ほかにも差異はありましたが最高裁で判断された項目に絞っております)。

項目正社員嘱託社員最高裁の判断
無事故手当1万円なし
作業手当1万円なし
給食手当3500円なし
通勤手当距離に応じて最大5万円3000円(固定)
住宅手当2万円なし
皆勤手当1万円なし

X2は、正社員と嘱託社員とでこのような差異があるのは不合理な差別であり労働契約法20条に違反するとして、Y2に対し、賃金の差額等の支払いを求めて提訴しました。

1審(東京地裁)は、本件で正社員と定年後再雇用労働者の業務の内容・責任の程度は同じであり、勤務場所や勤務の内容を変更することがあるという点も同じであり、運送業務という職務内容に照らし定年前後においてその職務遂行能力に差は生じない、などと述べて、本件の給与格差は不合理な差異として労働契約法20条に違反する、という定年退職後の方には非常に画期的な、会社にとっては衝撃的な判断を行いました。

しかし、控訴審(東京高裁)は、従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実であるといって差し支えないなどとして、1審判決をすべて取り消しました(会社は一安心)。

最高裁は、上記の表のとおり、給与項目毎に判断し、精勤手当と時間外手当の差異につき労働契約法20条に違反すると判断しました(その他の差異は適法)。

最高裁は、以上のように判断した理由として、先ほどの労働契約法20条の趣旨を述べた上で、精勤手当については「(会社)の嘱託乗務員と正社員との職務の内容が同一である以上、両者の間で、その皆勤を奨励する必要性に相違はないというべきである。」などとし、時間外手当については「嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは、不合理であると評価することができるものに当たり、正社員の超勤手当の計算の基礎に精勤手当が含まれるにもかかわらず、嘱託乗務員の時間外手当の計算の基礎には精勤手当が含まれないという労働条件の相違は、不合理である」などとしました。

判決の意義

それぞれの判決についてどのような印象をお持ちでしょうか。

最高裁は、給与項目毎に、その支給の趣旨や差異を設ける理由を詳細に検討し判断をしています。そこには、地位(正社員、契約社員、嘱託社員)の違いが直ちに待遇格差を正当化しない、地位は違っても、同じ仕事、同じ責任であるならば、同じ待遇にすべしという「同一労働・同一賃金」の趣旨が背景として見えてきます。

今後は、以上のような視点をもって会社・労働者は行動することが求められているといえるでしょう。

(文責:梅本 寛人