京橋・宝町法律事務所

文語体の法律

現在開会中の通常国会(第193回国会)において「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」が昨年(平成28年)秋の臨時国会(第192回国会)から継続して審議されています。この法律案は,航空運送及び複合運送に関する規定の新設,危険物についての荷送人の通知義務に関する規定の新設,船舶の衝突,海難救助,船舶先取特権等に関する規定の整備等を行うものですが,この法律案が国会で可決され成立しますと,あることが起こります。

わが国の法律の数はいくつあるのか?日ごろ色々な法律を使って仕事を行っている私にも即答できない難問ですが平成29年3月31日現在の「法律」の数は1,967だそうです。もちろん,私はこの1,967本の法律すべてのタイトルなど知りませんし,ましてや,その条文の内容すべてを記憶などしておりません。

私が受験した司法試験(旧司法試験)においては,まず「短答式試験」があり,これをパスした者のみが「論文式試験」を受験することができましたが(さらに論文式試験に受かると口述試験があり,これに合格して晴れて司法試験合格となります),「短答式試験」は憲法・民法・刑法の三科目,論文式試験は憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法の六科目でした。このうち,論文式試験の受験科目に相当する6つの法律のことを一般に「六法」と称し,さすがに,法律家でこの六法の内容を知らない者はいません。

さて,この「六法」ですが,私が大学の法学部に入学し初めて「刑法」の授業を受けたとき,条文はこんな調子でした。
「罪本重カル可クシテ犯ストキ知ラサル者ハ其重キニ従テ処断スルコトヲ得ス」(刑法38条2項)。
この意味,お分かりでしょうか?「つみもと おもかるべくして おかすときしらざるものは そのおもきにしたがいて しょだんすることをえず」と読みます。ちなみに,現在の刑法(38条2項)においては,
「重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。」
と規定されています。これだと,少しは意味が分かりやすくなっているといえましょうか(もっとも文章自体は長くなってしまっています)。

私の大学時代は,六法のうち民法,商法,民事訴訟法は,上記の刑法と同様,カタカナ交じりの文語体で規定されていました。いずれも明治に制定された法律であり,文語体となっているのは当然といえますが,「法律」というのは何と難しいものか,という印象を与えるには十分です。もっとも,私は,個人的には,文語体の持つ”調子の良さ”といいますか,思わず声を出して読みたくなる雰囲気が好きですので,あまり抵抗はなかったのですが・・

しかし,法律の”分かりやすさ”や”平易化”の要請という時代の波には勝てず,上記の刑法は平成7年に,民事訴訟法は平成10年に,民法は平成16年に現代語化(ひらがな化)され,商法も「会社法」の成立(平成17年)に伴い会社法関係の規定がごっそりと削除され,その他の商法総則・商行為法関係の規定もひらがな化されました。

もっとも,商法の543条以下の規定(運送営業,海商法関係等)は,その後も”しぶとく”文語体で規定されていましたが,冒頭記載しました「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律案」が成立しますと,これらの規定もついにひらがな化され,これで,六法から文語体は姿を消すということになるのです。

(文責:梅本 寛人