京橋・宝町法律事務所

学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか⑥-評議員会の種類、招集手続

前稿(学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか⑤ー評議員の職務等)に引き続き、今回は、評議員会の招集について見ていきたいと思います(なお、以下、意見にわたる部分は、筆者の全くの私見でありますので、ご留意ください。)。

評議員会の種類(改正私学法69条)

(評議員会の招集の時期)
第69条 定時評議員会は、毎会計年度の終了後一定の時期に招集しなければならない。
2 評議員会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる。

文部科学省の資料「私立学校法の改正について」では、上記条文のポイントとして以下のように記されています。

定時評議員会は、毎会計年度終了後一定の時期に招集しなければならない

「一定の時期」とは具体的にはいつなのか、という点について、明文上の規定はありません。もっとも、他の法令の規定等の存在から、結局、4月から6月までの「一定の時期」に定時評議員会を招集する必要があります。
この点は、上記文科省資料の第69条・第70条に関するQ1においても以下のように説明されています。

第69条第1項の「一定の時期」とは具体的にどの程度を言うのか。

「一定の時期」について具体的な範囲が決まっているわけではありませんが、定時評議員会において報告される計算書類等は会計年度終了後3か月以内に作成しなければならないとされているところ、通常、計算書類等の作成後、速やかに開催されるものと考えています。

学校法人は、毎会計年度終了後3か月以内に、文部科学省令で定めるところにより、各会計年度に係る計算書類等(貸借対照表、収支計算書及び事業報告書並びにこれらの附属明細書。)を作成しなければならないとされます(改正私学法103条2項)。従来は、計算書類等は、毎会計年度終了後2か月以内に作成することが義務づけられていましたが(現行私学法47条1項)、これが3か月に延長されました。延長の理由については「会計監査人による会計監査は、理事会承認前の計算書類及び財産目録について行うことを予定していることから、当該監査期間を確保するため、書類の作成期限(理事会承認の期限)を現行より1か月延長することとしています。」と説明されています(前記文科省資料の第103条のQ1)。
さらに、私学助成を受けている学校法人においては、計算書類等を、毎会計年度終了後3か月以内、すなわち、6月30日までに、所轄庁に提出する必要があります(改正私立学校振興助成法14条4項)。

※改正私立学校振興助成法14条4項
4 助成対象学校法人は、文部科学省令で定めるところにより、毎会計年度終了後三月以内に、その終了した会計年度に係る計算書類及びその附属明細書並びに当該会計年度の翌会計年度の収支予算書に前項の監査報告(会計監査人設置学校法人等にあつては、私立学校法第八十六条第二項の会計監査報告)を添付して、所轄庁に提出しなければならない。ただし、第二項ただし書に規定する場合には、監査報告の添付を要しない。

つまり、所轄庁への計算書類等の提出を6月30日までに完了させなければなりませんから、計算書類等の作成、監査(改正私学法104条1項、2項)、理事会での承認(同条3項)、評議員会への提出と意見聴取(同法105条2項、3項)も、それまでに行う必要があるのです。法律上、計算書類等の作成期限が「2か月」から「3か月」に延長されたとはいうものの、その後の監査、理事会そして評議員会のスケジュールのことを考えると、会計年度終了後、早々に計算書類等を作成しなければならないという実務に大きな変更はないのではないかと思われます。
理論的に突き詰めて考えますと、例えば、理事会の承認を6月30日に行い、同日、所轄庁への提出も済ませる(評議員会への提出・意見聴取は7月にする。すなわち、定時評議員会の招集時期を「毎年7月」にする。)ということも考えられなくはありません。というのは、評議員会での手続は、単なる「意見聴取」であり、法人としての計算書類等の作成に関する意思決定(機関決定)は、理事会での「承認」で完結しており、そのような機関決定を経た計算書類等を提出することで、所轄庁への「提出」としても十分であると考えられるからです(前記文科省資料の第103条のQ4も参照)。
しかし、これは、実務上は受け入れ難い見解ではないかと考えられます。評議員会での意見聴取は、単なる任意の手続ではなく法律上規定されている重要な手続であり、それを欠いた状態で所轄庁に提出したとしても、法律上の手続が履践されていないという意味では、やはり瑕疵があるものといわざるを得ないからです。
この点、今般公表された「学校法人寄附行為作成例」(令和5年8月23日大学設置・学校法人審議会(学校法人分科会)決定)では、定時評議員会の招集時期について、以下のとおり規定されており、4月から6月までの「一定の時期」とすることが明確化されています。

(開催)
第四十一条 評議員会は、定時評議員会として毎年度六月に一回開催するほか、必要がある場合に開催する。
※上記規定例に関する備考
・定時評議員会は、四月から六月までの一定の時期に開催すること。
・定時評議員会の開催時期を、「毎会計年度終了後三月以内」と規定することも可能。

評議員会は、以上の定時評議員会のほか、必要がある場合はいつでも招集することができます(改正私学法69条2項)。

評議員会の招集手続(改正私学法70条)

(評議員会の招集の手続等)
第70条 評議員会は、寄附行為をもつて定めるところにより、理事が招集する。
2 評議員会を招集する場合には、理事会において、次に掲げる事項を定めなければならない。
 一 会議の日時及び場所
 二 会議の目的である事項があるときは、当該事項
 三 会議の目的である事項に係る議案(当該目的である事項が議案となるものを除く。以下この号において同じ。)について、議案が確定しているときはその概要、議案が確定していないときはその旨
 四 前3号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項
3 評議員会の議案は、会議の目的である事項について、理事が提出する。
4 評議員会を招集するには、理事は、評議員会の日の1週間前までに、評議員に対して、書面でその通知を発しなければならない。
5 理事は、前項の書面による通知の発出に代えて、政令で定めるところにより、評議員の承諾を得て、学校法人の使用に係る電子計算機と評議員の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて文部科学省令で定めるものにより通知を発することができる。この場合において、当該理事は、同項の書面による通知を発したものとみなす。
6 前2項の通知には、第2項各号に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。

文部科学省の資料「私立学校法の改正について」では、上記条文のポイントとして以下のように記されています。

・評議員会は、理事が招集する。
・評議員会の議案は、会議の目的である事項について、理事が提出する。

評議員会の招集権者について、現行私学法では、理事長とされています(現行私学法41条3項)。
他方、改正私学法では、「理事」が招集するものとされています。もっとも、寄附行為に定めることによって、理事の中でも特定の理事(例えば「理事長」とする等。理事長は、「理事のうちから」理事会で選定されるものですから(改正私学法37条1項)、法律上は「理事」の一員です。)が招集するとすることが可能です。

招集権者である理事が評議員会を招集する際には、理事会において、評議員会の日時・場所(1号)、会議の目的である事項(議題。2号)、議案の概要(3号)、その他文科省令で定める事項(4号。現時点では未制定)を決定する必要があります。このうち、「会議の目的である事項」とは、評議員会の目的事項すなわち「議題」のことです。この議題に関して、評議員会での決議、諮問、報告の対象となる案件が「議案」であり、その議案の「概要」を理事会で決定する必要があります。

上記の定時評議員会の招集に関して決定した理事会の議事録(改正私学法43条)の記載は、以下のようになるのではないかと思われます。

第○号議案 令和○年度定時評議員会の招集の決定の件
 議長から、令和○年度定時評議員会を次のとおり開催したい旨が提案され、○○理事より別添資料に基づき説明がなされた。質疑応答は特になく、議長が賛否を諮ったところ、出席理事全員異議なく承認可決した。
 日 時 令和○年6月○日(○曜日) 午後1時30分
 場 所 ○○大学○号館大会議室
 目的事項
  (諮問事項) 
    第1号議案 令和○年度計算書類及び事業報告書に対する意見聴取の件
  (決議事項)
    第2号議案 監事○名選任の件
  (報告事項)
    第3号議案 ・・・・
 議案の概要
  第1号議案 令和○年度の計算書類(貸借対照表及び収支計算書)及び事業報告書につき評議員会の意見を求めるものである。計算書類等の内容は別添のとおりである。
  第2号議案 監事○名の選任につき、評議員会の決議を求めるものである。監事候補者は、次のとおりである。
        ○○○○氏(再任)、○○○○氏(再任)、○○○○氏(新任)、・・

評議員会の議案は、会議の目的である事項について理事が提出します(3項)。当然のことが規定された条文といえ、敢えて明文化されている趣旨が少々不明ですが(一般法人法や社会福祉法には、このような条文はありません)、これは、評議員の議案提出権(評議員の総数の3分の1(これを下回る割合を寄附行為をもって定めた場合にあっては、その割合)以上の評議員は、共同して、評議員会において、会議の目的である事項につき議案を提出することができる、という権限)に対する「評議員会議案の理事提出」という原則を示す規定ということでしょうか。

評議員会を招集するためには、評議員会の日の1週間前までに、評議員に対して、書面でその通知を発しなければなりません(一定の場合、メール等の電子的方法により送付することも可)。その通知には、理事会において決定した事項(評議員会の日時・場所、議題、議案の概要、その他文科省令で定める事項)を記載(または記録)しなければなりません(4項から6項)。
この「1週間前まで」の意味ですが、法解釈上、招集通知を発送する日と評議員会の日との間に1週間が必要である、すなわち「中1週間が必要である」という意味ですので、注意が必要です(初日不算入の原則。民法140条)。例えば、評議員会が、令和8年6月18日(木)である場合、その1週間前である6月11日(木)に招集通知を発送することは不可であり、6月10日(水)までに、通知の発送を完了する必要があります。なお、発送を1週間前までにすれば足り、1週間前までに各評議員に到達している必要はありません。

なお、これまで、学校法人においては、理事会と定時評議員会の同日開催という実務が多く取られていたようですが、改正法施行後は、このような同日開催は不可能になります。前記文科省資料(第69条・第70条のQ6)においても以下のとおり説明されています。

理事会と評議員会を同日に開催することは可能か。理事会終了後同日に評議員会を開催する場合、理事会において評議員会の日時等を定め、1週間前までに通知をしなければならないので、評議員会開催直前に開催を決定することはできないという理解でよいか。また、評議員会終了後、すぐに理事会を開催することは可能か。

定時評議員会については、理事会の承認を受けた計算書類・事業報告書を定時評議員会の招集通知に際して提供する必要があり(法第105条第1項)、招集通知は評議員会の1週間前までに行う必要があります(法第70条第4項)。また、(理事会で承認した)計算書類及び事業報告書並びにその附属明細書を定時評議員会の1週間前の日から備え置く必要があります(第106条第1項)。そのため、決算にかかる理事会と、決算について意見聴取を行う定時評議員会については、同日開催は不可能です。
その他の理事会・評議員会については、理事会については招集期間を短縮できること、評議員会は全員の同意があれば招集手続を経ることなく開催することができることから、必要な手続きがなされていれば、理事会・評議員会の同日開催や、評議員会終了後にすぐに理事会を開催することは可能です。

(つづく)

(文責:梅本 寛人

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