京橋・宝町法律事務所

学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか④-評議員の解任

前稿(学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか③ー評議員の任期)に引き続き、評議員の解任について見ていきたいと思います(なお、以下、意見にわたる部分は、筆者の全くの私見でありますので、ご留意ください。)。

評議員の解任

(評議員の解任)
第64条 評議員の解任は、寄附行為をもつて定めるところによる。

文部科学省が公表している資料「私立学校法の改正について」では、ポイントとして、以下のように記されています。

① 評議員の解任は、寄附行為をもって定める。

現行私学法においては評議員の解任に関する条文はなく、寄附行為の定めるところに委ねられていましたが、改正法では、上記のとおり、解任に関する規定が新設されています。といっても、内容は、「寄附行為をもって定める」というものであり、これまでと実質的な変更はありません。

なお、現行私学法において文部科学省が公表している「学校法人寄附行為作成例」(令和3年4月13日大学設置・学校法人審議会(学校法人分科会)決定)では、評議員の解任につき、以下のように規定されています。

(評議員の解任及び退任)
第26条 評議員が次の各号の一に該当するに至ったときは、評議員総数の3分の2以上の議決により、これを解任することができる。
一 心身の故障のため職務の執行に堪えないとき
二 評議員たるにふさわしくない重大な非行があったとき
2 (略)

上記規定例では、評議員は「評議員総数の3分の2以上の議決」により解任できること、すなわち、評議員を解任できるのは「評議員の総数の3分の2以上」の評議員であること(なお、上記規定例の文言では「評議員会」の「決議」とは明示されていないのですが、事実上、「評議員総数の3分の2以上の議決」とは「評議員会における評議員総数の3分の2以上の多数による決議」のことを指しているものと考えられます)、つまりは「評議員を解任できるのは、他の多数の評議員である」という規定例となっています。

もっとも、文部科学省は、前記資料(私立学校法の改正について)の第64条に関するQ1において、以下のような説明を行っています。

寄附行為で定めれば、理事や理事長が評議員を自由に解任することができるようにすることも可能なのか。

学校法人と評議員会とは委任関係ではあるものの、原則として、評議員を解任することができる主体は、当該評議員を選任した機関等であると考えています。したがって、理事会が評議員を解任することができる場合は、例外的なケースに限られると考えています。

評議員は学校法人との間で委任契約(評議員任用契約)を締結しているので(改正法61条3項参照)、当該評議員を解任すること、すなわち、当該評議員と学校法人間の評議員任用契約を解消することができるのは、契約当事者であるところの「学校法人」それ自体、という帰結になります。しかし、「法人」というのは目に見えない存在でありますので、誰かの意思決定を法人の意思決定とする必要があり、その「誰か」のことを法律上「機関」と呼びます。そして、当該評議員を「解任する」ことは、「選任する」ことの裏返しでありますから、最初に当該評議員を選任した機関が、解任権限を有する「機関」としても適当であるということになります。
としますと、寄附行為において定められた評議員の選任機関が、評議員を解任する権限も有するとするのが相当であるといえます。上記の寄附行為作成例においては、「評議員総数の3分の2以上の多数」の評議員が、評議員を解任する権限を有するとされていましたが、評議員の選任が評議員会の決議によりなされるものと寄附行為において規定している法人においては、解任も評議員会の決議によるとするのが適当であるといえるでしょう(なお、決議の要件として「評議員総数の3分の2以上の多数」とする法令上の制限はなく、寄附行為において、「普通決議(過半数の決議)により評議員を解任することができる」と規定することも可能であると思われます。)。
他方、理事会が評議員を選任すると寄附行為において規定している法人においては、理事会が評議員の解任権限も有するとするのが素直といえるでしょう。もっとも、「理事又は理事会が評議員を選任する場合において、当該評議員の数が評議員の総数の2分の1を超えないこと。」という制限がありますから(改正私学法62条5項2号)、すべての評議員を理事又は理事会が解任できると寄附行為において定めることは不適当であるというべきです。「理事又は理事会の選任に係る評議員については、その決定又は決議により、評議員を解任することができる」「他の機関の選任に係る評議員については、当該他の機関の決定又は決議により、評議員を解任することができる」といった、選任機関毎の解任権限を寄附行為において定める必要が生じるのではないかと思われます。

次に、評議員の解任はどのような場合に可能か(評議員の「解任事由」の問題)について、同じく、文部科学省の前記資料(第64条に関するQ2)では、次のように説明されています。

評議員の解任事由に制限はないのか。

寄附行為で定める評議員の解任事由には、私立学校法上は明文化した制限はありませんが、解任事由の定めは社会通念上合理的かつ適切な内容であることが求められると考えます。

この点、前記寄附行為作成例においては、「心身の故障のため職務の執行に堪えないとき」「評議員たるにふさわしくない重大な非行があったとき」が評議員の解任事由として定められていましたが、このような規定ぶりでも、「社会通念上合理的かつ適切な内容である」ということは可能ではないかと思われます。ほかにも、「法令の規定又はこの寄附行為に著しく違反したとき」「職務上の義務に著しく違反したとき」といった事由も、合理的な事由になり得るのではないかと考えられます。

いずれにせよ、文部科学省から、今後、今般の改正私学法に対応した新たな寄附行為作成例が公表されると思われますので、その作成例等も参照しつつ、評議員の解任に関して適切な定めを設けることが重要であるといえるでしょう。

なお、所轄庁は、評議員に対する解任勧告をすることも可能となりました(改正私学法133条10項)。これまでは、所轄庁による解任勧告は、役員のみとなっておりましたが(現行私学法60条9項)、改正法では、解任勧告の対象として、役員のほか評議員も加えられました。

(つづく)

(文責:梅本 寛人

03-6272-6918