京橋・宝町法律事務所

学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか①-評議員の選任等

「私立学校法の一部を改正する法律案」が令和5年4月26日に参議院本会議にて可決・成立し、同年5月8日に公布、令和7年4月1日からの施行が予定されています。この改正により、学校法人制度はどのように変わるのか順に確認をしていきたいと思います。

今回のテーマは「評議員会はどう変わるのか」です。以前から「学校法人のガバナンス改革」論議においては、「評議員会改革」もっといえば「評議員会の権限を強化し、学校法人のガバナンスを担う中核的な機関にしよう」(≒評議員会を株式会社の「株主総会」のようにしよう?)ということが中心テーマになっていました。今回の私立学校法改正により、果たして評議員・評議員会制度はどのように変貌するのか、条文を順に見ていきましょう(なお、以下、意見にわたる部分は、筆者の全くの私見でありますので、ご留意ください。)。

評議員の選任

(評議員の選任等)
第61条 評議員は、当該学校法人の設置する私立学校の教育又は研究の特性を理解し、学校法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから、寄附行為をもつて定めるところにより、選任する。
2 評議員の選任は、評議員の年齢、性別、職業等に著しい偏りが生じないように配慮して行わなければならない。
3 学校法人と評議員との関係は、委任に関する規定に従う。

文部科学省が公表している資料「私立学校法の改正について」では、ポイントとして、以下のように記されています。

① 評議員は、寄附行為をもって定めるところにより選任する。
② 評議員の選任は、評議員の年齢、性別、職業等に著しい偏りが生じないように配慮して行わなければならない。

評議員の選任については、結局、「寄附行為の定めるところによって選任する」ということであり、現在の評議員の選任方法(現行私学法44条)から大きな変更はないものといって良いでしょう。もっとも、年齢、性別、職業等に著しい偏りが生じないように配慮する必要があり、これを受け、文部科学省は、「評議員会の構成員としてふさわしい者を選任することができる適切な選任方法としていただく必要がある」と説明しています(前掲資料の第61条のQ1)。

なお、今回の私立学校法改正案のベースとなっている文部科学省の学校法人制度改革特別委員会報告書(「学校法人制度改革の具体的方策について」)は、評議員の選任につき「基本的には評議員会を選任機関として明確にしつつ、」としておりました(同報告書8頁)。そこで、例えば、「評議員は、当該学校法人の設置する私立学校の教育又は研究の特性を理解し、学校法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから、評議員会の決議その他の寄附行為をもつて定めるところにより、選任する。」といった書きぶりも考えられるところですが、改正法では端的に「寄附行為をもつて定めるところによって選任する」という表現となっています。
これは、改正私学法自体が、理事・理事会が評議員を選任することを許容する規定を置いており(改正私学法62条5項2号。ただし、その数は、評議員の総数を2分の1を超えてはならない。)、評議員会の決議のみによって評議員を選任する例は比較的少なくなることも想定されるため、法制化の段階で、端的に「寄附行為をもつて定めるところ」という表現に落ち着いたというところでしょうか。

ちなみに、一般財団法人・公益財団法人における評議員の選任は、上記の学校法人における評議員の選任よりももっと不明確であり、評議員の選任に関する端的な条文自体が実はありません。「評議員の選任及び解任の方法」が定款の必要的記載事項として掲げられているに過ぎません(一般法人法153条1項8号)。なお、内閣府に設置された「新しい時代の公益法人制度の在り方に関する有識者会議」がこの度公表した最終報告においては、評議員の選任について一定の言及がなされていますが、「理事が評議員の選任に実質的な影響力を行使するような不当な関与を排除する方策として、評議員の選任及び解任をするための評議員選定委員会を設けて候補を選任すること等を推奨する。」(同報告・10頁)というものであり、法改正にまで踏み込むものとはなっておりません。

他方、社会福祉法人においては、「評議員は、社会福祉法人の適正な運営に必要な識見を有する者のうちから、定款の定めるところにより、選任する。」(社会福祉法39条)と規定されています。改正私学法61条1項は、この社会福祉法人における評議員の選任方法に関する条文をモデルとしていることは明らかでしょう。

評議員の善管注意義務

改正私学法61条3項は「学校法人と評議員との関係は、委任に関する規定に従う。」と規定しています。これは、役員(理事、監事)と学校法人との関係についての規定(現行私学法35条の2)と同様であり、評議員についても規定されるに至ったものです。もっとも、従前から、解釈として、評議員と学校法人の関係は委任に関する規定に従うものとされていました(松坂浩史「逐条解説 私立学校法(三訂版)」(2020年 学校経理研究会)248頁)。

さて、以上の条文化により、評議員が善管注意義務違反に問われ、評議員が学校法人に対して損害賠償責任を負う場合が広がるのか?という点ですが、広がるということはほぼ無いのではないかと考えます。
というのは、評議員会ないし評議員の権限の拡大は、今回の改正私学法においても限定的であること、従前から、学校法人以上に権限が強い一般財団法人・公益財団法人における評議員についても、「個々の評議員の任務懈怠により法人に直接損害を発生するケースは少ないと考えられる」とされており(新公益法人制度研究会編著「一問一答公益法人関連三法」(2006年 商事法務)139頁)、評議員が実際に損害賠償責任を負うケースは少ないのではないかと考えられるところです。

(つづく)

(文責:梅本 寛人

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