京橋・宝町法律事務所

学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか③-評議員の任期

前稿(学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか②ー評議員の資格等)に引き続き、評議員の任期について見ていきたいと思います(なお、以下、意見にわたる部分は、筆者の全くの私見でありますので、ご留意ください。)。

評議員の任期

(評議員の任期)
第63条 評議員の任期は、選任後寄附行為をもつて定める期間以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する第69条第1項の定時評議員会の終結の時までとする。この場合において、寄附行為をもつて定める期間は、6年以内とする。
2 前項の規定は、寄附行為をもつて、任期の満了前に退任した評議員の補欠として選任された評議員の任期を当該退任した評議員の任期の満了する時までとすることを妨げない。

文部科学省が公表している資料「私立学校法の改正についでは、ポイントとして、以下のように記されています。

① 評議員の任期は、寄附行為で定める期間(6年以内)以内に終了する会計年度の最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする。

現行私学法においては評議員の任期に関する規定はなく、寄附行為の定めるところに委ねられていましたが、改正法では、上記のとおり、任期に関する規定が置かれています。

「定時評議員会の終結の時まで」という用語の趣旨

「選任後寄附行為をもつて定める期間以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで」という規定ぶりは、他の法制(一般法人法174条1項、社会福祉法人41条1項等)と共通するものです。

ところで、なぜ「○年」といった固定的な期間ではなく、「定時評議員会の終結の時まで」としているのかというと、他の法人では、「定時評議員会」(一般社団法人であれば社員総会、株式会社であれば株主総会)において役員や評議員の選任(改選)が行われるため、前任の役員等の任期満了時を同会議の終結の時とすることで、「役員等が不在の期間」を解消できるからです(例えば、3月31日で任期満了となってしまうと、6月頃に開催予定の定時評議員会までの間、役員等が不在となってしまいます)。
もっとも、今回の改正私学法においては、監事や会計監査人については評議員会において選任されることが明確になっているものの(改正私学法45条1項、80条1項)、理事については「理事選任機関」が選任することとされており(改正私学法30条1項)、又、評議員の選任も寄附行為の定めに委ねられています(改正私学法61条1項)。とすると、上記の「役員等の不在期間の解消」という趣旨から説明することは困難でしょう。
そこで、文部科学省は、上記の「定時評議員会の終結の時まで」という定め方にした趣旨について「評議員の任期の終期を定時評議員会の終結の時までとする趣旨は、評議員が担当していた年度の総決算である定時評議員会まで責任を持って対応することが適切であるとの考えによる」と説明しています(前記資料「私立学校法の改正について」の第63条のQ4)。「総決算」といういささか文学的な表現が用いられていますが、改正私学法105条3項では、「計算書類等」(計算書類等とは、貸借対照表、収支計算書、事業報告書及びこれらの附属明細書。改正私学法103条2項)につき、定時評議員会に報告され、その意見を聴かなければならない、とされており、評議員としては、定時評議員会において計算書類等につき報告を受け、これに意見を述べるところまでが責任をもって果たすべき職務である、ゆえに、そこまで任期があるとされるべき、というところでしょうか(もっとも、他の法人では、決算の「承認」が定時評議員会(定時総会)のもっとも主要な議題であって、これに比べて学校法人の定時評議員会はせいぜい「意見」を述べるのみであり、評議員会の関与の度合は相対的に低いのではありますが)。

任期は何年とすべきか

「選任後寄附行為をもって定める期間」を何年にするのかは、各学校法人の実情に応じて、寄附行為において定めて頂くことになりますが、「6年以内」とする必要があります。

また、理事の任期(4年以内で寄附行為をもって定める期間以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時まで。改正私学法32条1項)を超える必要があります(改正私学法32条2項)。すなわち、理事の任期に関する寄附行為をもって定める期間を「4年」としたならば、評議員のそれは、それを超える期間(5年または6年)にする必要があります。

任期の短縮(補欠として選任された評議員)

「任期の満了前に退任した評議員の補欠として選任された評議員の任期を当該退任した評議員の任期の満了する時までとすること」が可能とされています。
すなわち、任期の途中で退任したA評議員がいる場合で、その後、B評議員がA評議員の補欠として(後任として)選任されたときに、寄附行為において「補欠の評議員の任期は、前任者の残任期間とする」といった定めがあれば、B評議員の任期は、A評議員の残余の任期の期間とすることが可能となります(この説明における「補欠」と改正私学法30条3項、45条2項の「補欠」(いわゆる予選の「補欠」)は、同じ「補欠」でも少々意味が違っていて、商業登記実務上は論点となっているところですが、詳細は割愛します)。つまり、B評議員の任期は、通常の評議員の任期よりも短縮されることとなります。

他方、補欠ではなく「増員」によって選任された評議員につき、他の評議員の任期と合わせるため、「増員の評議員の任期は、他の在任評議員の任期の残存期間と同一とする」といった定めを寄附行為に設けることはできないものと考えられます。条文上、「補欠」の評議員についてのみ任期の短縮が許されており、評議員の地位の安定化を図るためにも、本来の任期の例外となる短縮規定につき拡大解釈することは許されないと解されるためです。

選任機関によって任期をバラバラにする?

前記の文部科学省の資料「私立学校法の改正について」の63条のQ2で、以下のような説明がなされています。

評議員の任期を一律に決めるのではなく、評議員を選任する機関毎などに分けて寄附行為で定めることは可能か。

評議員の任期を評議員を選任する機関毎などに分けて寄附行為で定めることは可能ですが、分けることに合理的な理由があるべきと考えます。

以上から分かることは、評議員の選任機関は複数であっても良い(複数を寄附行為で定めることも可能)、選任機関によって任期に差異を設けても良い(ただし合理的な理由が必要)ということです。
評議員の任期の適正管理という観点からは、評議員の中でバラバラに任期を設定すると事務が大変になることは容易に想像できますが、他方で、一律に任期を設定するとかえって不都合な場合もあり(私はすぐには思いつきませんが)、合理的な理由がある限りで任期を分けることも可能としているものと考えられます。

(つづく)

(文責:梅本 寛人

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