京橋・宝町法律事務所

学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか⑤-評議員会の職務等

前稿(学校法人の評議員・評議員会はどう変わるのか④ー評議員の解任)に引き続き、今回は、評議員会の職務等について見ていきたいと思います(なお、以下、意見にわたる部分は、筆者の全くの私見でありますので、ご留意ください。)。

改正私学法66条

(評議員会の職務等)
第66条 評議員会は、全ての評議員で組織する。
2 評議員会は、次に掲げる職務を行う。
 一 学校法人の業務若しくは財産の状況又は役員の職務の執行の状況について、役員に対して意見を述べ、又はその諮問に答えること。
 二 この法律の他の規定により評議員会の意見の聴取を要する事項について意見を述べること。
 三 この法律の他の規定により評議員会の決議を要する事項について決議すること。
 四 前三号に掲げるもののほか、この法律の他の規定により評議員会が行うこととされた職務
 五 前各号に掲げるもののほか、寄附行為をもつて定めるところにより評議員会が行うこととされた職務
3 学校法人は、この法律の規定により評議員会の意見の聴取又は決議を要することとされた事項について、評議員会の意見の聴取又は決議を要しない旨を寄附行為をもつて定めることができない。
4 前項の規定は、この法律の規定により評議員会の意見の聴取を要する事項について、評議員会の意見の聴取に代えてその決議を要する旨を寄附行為をもつて定めることを妨げない。

文部科学省が公表している資料「私立学校法の改正について」では、上記条文のポイントとして、以下のように記されています。

① 法律において評議員会の意見聴取や決議が必要とされた事項については、寄附行為によって評議員会の意見聴取や決議を不要にすることはできない。
② ただし、法律において評議員会の意見聴取が必要とされた事項について、寄附行為によって評議員会の決議が必要であることにすることはできる。

評議員会の構成

評議員会は、全ての評議員によって組織されます。

評議員の定数は、寄附行為をもって定められますが、6人以上とする必要があり、かつ、同じく寄附行為をもって定められる理事の定数(5人以上)を超える数とする必要があります(改正私学法18条3項)。例えば、寄附行為で理事の定数を10人とした場合は、評議員の定数は11人以上で寄附行為において定める必要があります。
以上のとおり寄附行為をもって定められた定数の評議員全員によって、評議員会が組織されることになります。

評議員会の職務

評議員会の職務(権限)は、大きく分けて、

① 意見を述べること(諮問に答えること)
② 決議をすること
③ 法律・寄附行為により評議員会が行うものとされた職務

の3つです。

評議員会が意見を述べる事項

評議員会が意見を述べるものとされている事項は、主として以下のとおりです。

① 理事の選任(改正私学法30条2項。理事選任機関に対して意見を述べる。評議員会が理事選任機関である場合は、意見聴取は不要。
② 学校法人の業務若しくは財産の状況又は役員の職務の執行の状況について役員に対して意見を述べ、諮問に答える(改正私学法66条2項1号)。
③ 重要な資産の処分及び譲受け(改正私学法36条3項1号、4項)
④ 多額の借財(改正私学法36条3項2号、4項)
⑤ 予算及び事業計画(大臣所轄学校法人等においては中期事業計画も。改正私学法148条3項)の作成又は変更(改正私学法36条3項6号、4項)
⑥ 役員及び評議員の報酬等の支給基準の策定又は変更(改正私学法36条3項7号、4項)
⑦ 収益事業に関する重要事項(改正私学法36条3項8号、4項)
⑧ 計算書類(貸借対照表及び収支計算書)及び事業報告書の内容(改正私学法105条3項)
⑨ 寄附行為の変更(改正私学法108条2項)
⑩ 解散(改正私学法109条2項)
⑪ 合併(改正私学法126条2項)
※ なお、大臣所轄学校法人等においては、⑨(ただし、軽微な寄附行為の変更は除く)、⑩、⑪については、評議員会の決議が必要となります(改正私学法150条)。

評議員会が決議をする事項

評議員会が決議をする事項は、主として以下のとおりです。

① (評議員会が理事選任機関である場合)理事の選任(改正私学法30条1項)
② 理事の解任を理事選任機関に求める旨の決議(改正私学法33条2項)
 ※ 評議員会が理事選任機関である場合は、端的に理事の解任を決議することができると思われます(改正私学法33条3項に「当該理事の解任を求める旨の評議員会の決議」との文言があり、これは評議員会が理事選任機関である場合の理事解任決議を意味するものと考えられます。)。
③ 監事の選任(改正私学法45条1項)
④ 監事の解任(改正私学法48条1項。ただし、議決に加わることができる評議員の数の3分の2以上に当たる多数による決議が必要。改正私学法76条2項)
⑤ 理事の行為の差止請求の訴えの提起を監事に求める旨の決議(改正私学法67条1項)
⑥ 評議員会の延期または続行(改正私学法77条)
⑦ 会計監査人の選任(改正私学法80条1項)
⑧ 会計監査人の解任(改正私学法83条1項)
⑨ 定時評議員会への会計監査人の出席を求める旨の決議(改正私学法87条、一般法人法109条2項)
⑩ 役員(理事及び監事。改正私学法23条2項。以下同じ)、評議員又は会計監査人の任務懈怠責任の全部の免除(改正私学法91条。ただし、全員一致の決議が必要。改正私学法76条3項)
⑪ 役員又は会計監査人の任務懈怠責任の一部の免除(改正私学法92条1項。ただし、議決に加わることができる評議員の数の3分の2以上に当たる多数による決議が必要。改正私学法76条2項)
⑫ ⑪の責任の一部免除があった後に、当該役員等に退職慰労金その他の文部科学省令で定める財産上の利益を与えることの承認(改正私学法92条4項)
⑬ 役員、会計監査人または清算人に対する責任追及の訴えの提起を学校法人に求める旨の決議(改正私学法140条1項)
⑭ (大臣所轄学校法人等において)寄附行為の変更(軽微な変更を除く。改正私学法150条)
⑮ (大臣所轄学校法人等において)解散(改正私学法150条)
⑯ (大臣所轄学校法人等において)合併(改正私学法150条)  

法律・寄附行為により評議員会が行うものとされた職務

「法律の規定により評議員会の意見の聴取を要する事項について、評議員会の意見の聴取に代えてその決議を要する旨を寄附行為をもつて定めることを妨げない。」(改正私学法66条4項)とされています。つまり、法律で意見聴取事項とされている事項につき、寄附行為で定めることで、これを決議事項にすることは可能とされています。これは、改正前私学法42条2項と同趣旨の規定といえるでしょう。

以上から、寄附行為によって決議事項とされている事項については、評議員会の決議を要することとなります。

評議員会での意思決定によるガバナンス

改正私学法66条は、今般の私立学校法改正の検討段階において長らく議論されてきた「学校法人のガバナンス改革」論で最も議論が白熱したテーマ、すなわち「評議員会の権限強化」の議論と深くかかわる条文であるといえるでしょう。

「学校法人ガバナンス改革会議」が令和3年12月3日に公表した報告書(「学校法人ガバナンスの抜本的改革と強化の具体策」)においては、上記の「評議員会が意見を述べる事項」についても、その大半を決議事項にする(これによって評議員会の権限を強化する)ものとされました(同書6頁)。
他方で、「学校法人制度改革特別委員会」が令和4年3月29日に公表した報告書(「学校法人制度改革の具体的方策について」)では、「事業活動の社会的影響やステークホールダーが広範にわたる大臣所轄学校法人においては、学校法人の基礎的変更(任意解散(私学法第50条第1項第1号)・合併(私学法第52条第1項))及びそれに準じる程度の寄附行為の変更(私学法第45条)について、理事会の決定とともに評議員会の決議(承認)を要することとすべきである。上記以外の業務に関する事項については、現時点では、各法人の寄附行為の定めにより評議員会の議決事項を定めうる現行の評議員会の基本構造を維持することが望ましいが、ガバナンスの現代化を一層進める観点から、中期計画と役員報酬基準などの重要な業務の基本方針についても、理事会の決定に加えて評議員会の決議(承認)を要する位置付けとしていくことを引き続き検討すべきである。」「これに対し、事業活動やステークホールダーの範囲が限られた知事所轄学校法人においては、学校法人の基礎的変更等及びそれ以外の業務に関する事項を通じ、評議員会の議決事項とするかどうかを各法人の寄附行為の定めに委ねる現在の取扱いを維持することも認めることが適切である。ただし、学校法人の基礎的変更等に関わる事項についての意思決定は、将来的に全ての学校法人に共通の仕組みとしていくことが本来望ましく、引き続き検討すべきである。」とされました(同書5頁以下)。

今般の私立学校法改正は、上記学校法人制度改革特別委員会の報告書に示された考え方をベースに条文化されたものであり、「評議員会の決議事項の拡大」という端的な方向性でのガバナンス強化ではなく、評議員会の権限については基本的に従来の枠組み(評議員会は、基本的に意見聴取に答える会議体であり、決議事項の拡大は各法人の寄附行為自治に委ねる)を維持しつつ、社会的影響等が大きい大臣所轄学校法人においては一定の重大事項を法律上の決議事項に拡大したというものです。この意味で、「評議員会の決議事項の拡大」につき、改正前私学法から大きく変更される点は少ないものといえるでしょう。

評議員会の決議事項の拡大という観点での権限の強化は、理論的に考えると非常に難解なテーマであり(そもそも、財団法人に由来する学校法人制度において、「評議員会」は、いかなる存在意義・正統性を有する機関であるのか、単純に評議員会の決議事項を拡大しただけで学校法人のガバナンスは確保されるのか、そもそも財団法人におけるガバナンスはどのように図られるべきか等)、同じく、「評議員会制度」を有する一般財団法人・公益財団法人制度においても、議論がくすぶり続けている状況にあります。学校法人制度改革特別委員会報告書においても指摘されているとおり、今後も引き続き検討を行うべき論点が多いものといえるでしょう。

(つづく)

(文責:梅本 寛人

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