2時間ドラマの弁護士と実際の弁護士
弁護士が登場するドラマ・映画は昔からたくさんあります。最近では「リーガルハイ」という番組が人気のようですね(すみません,私は見たことがありませんのでこの番組に関するこれ以上の言及は控えます)。
私は,テレビの2時間ドラマが比較的好きでして,特に鉄道がからんだアリバイ崩し(○津川警部など)などを好んで観ます。私が弁護士だからというのは関係なく,単に鉄道好きという理由からに過ぎませんが・・
弁護士が主人公である2時間ドラマもたくさんあります。だいたい,弁護士が有能な事務員さんと組んで,難しい刑事事件と格闘し,最後は鮮やかな勝利を収める・・というパターンが多いでしょうか。
ドラマに出てくる弁護士を見ていると,ああ,私もこんなに鮮やかに,劇的に,事件と格闘し,そして解決してみたいものだ,とつくづく思います。実際の弁護士の仕事は,テレビに出てくる弁護士と比較すると,はるかに地味ですし,目の前の作業に追われてバタバタしています。
もうどなたかが指摘されているかもしれませんが,テレビに出てくる弁護士と実際の弁護士とで異なる点を何点か挙げてみました。私がいろいろな方から聞かれることが多い点でもあります。
ドラマの弁護士とは違い,弁護士は,何件かの案件を同時並行で行っている
テレビの弁護士は,よくもまあ,1件の案件にこれだけ時間を割いて取り組めるものだと感心します。なにしろ,思いついたらすぐに飛行機に乗ってどこへでも行きますから。実際には,弁護士は,数十件程度の案件を同時並行で抱えており,常に各案件の進捗に注意しつつ,時間を割いて取り組んでいます。もとより,各案件の依頼者の方にとっては,それぞれに重みのある案件ばかりです。ですので,手を抜くわけにはいきませんが,時間は有限であり,スケジュールも決まってしまっていることも多く,「ここのところが気になるから,私,明日,札幌に行って犯人のアリバイを調べてきます」とはなかなか簡単にはいきません。今はそんなことはありませんが,私が当事務所で独立開業する前に勤務していた事務所では,最高で200件弱の案件を抱えたこともありました。こうなると,毎日が戦場みたいなものですね。
刑事事件ばかりやる事務所はまだまだ少ない
2時間ドラマは基本的に刑事事件を解決していくものばかりです(※「刑事事件」とは,殺人,強盗,傷害などの犯罪に関する事件です。警察が出てくる事件,というところでしょうか。)。刑事事件と対になる言葉として「民事事件」というものがあります。これは,例えば「お金を貸したのに返してくれない」「交通事故にあったので加害者に損害賠償したい」といったトラブルに関する案件です。最近では,刑事事件を専門に取り扱う法律事務所もあるようですが,日本の弁護士は,民事事件を中心に刑事事件も扱うという方が大半です。
「異議あり!!」はあまり聞かない
かっこいいですね,この言葉。弁護士(または検察官)が法廷において,間髪を入れず大きな声で「異議あり!!」と叫ぶシーンは,定番ともいえる場面ですが,実際の法廷でそんなに見たことはありません。かくいう私も,法廷での証人尋問は何度も経験していますが,大きな声でハッキリと「異議あり!!」と叫んだことはありません。せいぜい「ちょっと,待って下さい」くらいでしょうか。あと,裁判官の定番シーンといえば,木槌をたたいて「静粛に!!」というものですが,これも見たことがありません。というか見られません。そもそも,日本の裁判所では,裁判官は木槌を持っていません。
弁護士費用を請求する場面がない
まあ,テレビドラマで弁護士費用というゼニカネの話の場面を流しても仕様がないのですが,実際には依頼者の方が気になる点として大きなウェイトを占めるのが,「弁護士費用はいくらかかるのだ??」という点だと思います。この点,シャーロックホームズのように「私は報酬はいらない。仕事がすなわち報酬なのだ」と格好をつけて言いたいところではありますが,残念ながらそういうわけには参りません。弁護士が,相談を受けた際に弁護士費用の概要やその根拠について適切な説明を行うことは,弁護士倫理としても当然のことであるとされています(弁護士職務基本規程29条1項)。ですので,案件をご依頼いただく際は,弁護士費用の点についてもきちんと説明するように心がけています。
以上,思いつくままに書いてみましたが,いかがでしたでしょうか。実際の弁護士は,ドラマでの弁護士と違い,地道に仕事を行うことがほとんどで,法廷で華々しく「異議あり!!」と叫んでばかりいるのではないのですが,一つ共通点を挙げるとすれば,「依頼者のために全力を尽くす」というところでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
(文責:梅本 寛人)