京橋・宝町法律事務所

KYOBASHI TAKARACHO PARTNERS

同一労働・同一賃金に関する判例②

報道等でもご承知のとおり、いわゆる「同一労働・同一賃金」について、続々と裁判所の判断がなされていますが、本年10月には、3つの最高裁判決(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵政事件)が出されました。

本ニューズレターでは、「同一労働・同一賃金」の意義について説明した上で、今後、企業はどのような対応を取るべきかを考えていきたいと思います。

同一労働・同一賃金の意義と判断基準

有期契約社員と正社員との間の賃金等の待遇の違いは、業務の内容や責任の程度等の諸事情を考慮して、不合理と認められるものであってはなりません(改正前の労働契約法20条)。この規定は、今般の働き方改革に伴い、パートタイム・有期雇用労働法8条に引き継がれ、パートタイム社員、契約社員と正社員間の不合理な待遇格差が禁止されます(本年4月1日から施行。中小事業主については、2021年4月1日から施行)。

先ほど述べた3つの最高裁判決は、いずれも(改正前)労働契約法20条違反の有無が争われたものですが、現在のパートタイム・有期雇用労働法8条の解釈についても、先例となる判決であると位置づけられます。

(改正前)労働契約法20条は、賃金等の待遇に違いがあることが「不合理」か否かの判断要素として、①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」)、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、という3つを挙げています。そして、先ほどの3つの最高裁判決も、これら3要素を具体的に検討して結論を導いています。

要するに、「同一労働・同一賃金」といっても、その文言どおりの「同じ仕事ならば同じ給料」という単純な解釈は、わが国おいては採用されていません。あくまでも、諸要素を勘案した上での不合理な待遇格差が禁止されるのであり、逆にいえば、正規・非正規間に待遇格差があっても、それが合理的なものであれば禁止はされないのです。

3つの最高裁判決

大阪医科薬科大学事件最高裁判決

この裁判においては、アルバイト職員に対して賞与を支給しないこと等の是非が争われました。

最高裁は、賞与が、正職員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る目的で支給されるものとした上で、アルバイト業務が相当軽易であるのに対し、正職員は英文学術誌の編集や病理解剖に関する遺族対応、毒劇物管理業務など、アルバイトが行わない業務があること(①職務の内容の相違)、アルバイトが配置転換されないのに対し、正職員は人事異動の可能性があること(②配置変更の範囲の相違)、そもそも教室事務が簡易なため、正職員からアルバイトに置き換えていた経緯や、アルバイトから契約社員、正社員への登用制度が設けられていること(③その他の事情)から、アルバイト職員に対して賞与を支給しないことは、不合理ではないと判断しました。

メトロコマース事件最高裁判決

この裁判においては、契約社員に対して退職金を支払わないこと等の是非が争われました。

最高裁は、退職金について、職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払い、継続的な勤務等に対する功労報償、といった複合的な性質を有するものであり、正社員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対して支給されるものとしました。その上で、契約社員は売店業務のみである一方、正社員は休暇や欠勤で不在の販売員の代務業務や、売上向上指導、トラブル処理等の業務があること(①職務の内容の相違)、正社員は配置転換があるが、契約社員は担当売店が変わることはあっても業務内容が変わることはないこと(②配置変更の範囲の相違)、契約社員から正社員への登用制度があること(③その他の事情)を考慮して、契約社員に退職金を支給しないことは。不合理ではないと判断しました。

日本郵政事件最高裁判決

この裁判においては、正社員には病気休暇として有給休暇が与えられるのに対し、契約社員には無給の休暇しか与えられないこと等の是非が争われました。

最高裁は、有給の病気休暇について、生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じてその継続的な雇用を確保することを目的とするものとしました。その上で、正社員は、郵便外務事務、郵便内務事務等に幅広く従事するのに対し、契約社員は特定の業務のみに従事すること、正社員は昇任や昇格により役割や職責が大きく変動する(ただし、新人事制度での正社員は昇任・昇格が予定されていない)のに対し、契約社員には昇任や昇格がないこと、正社員の人事評価では部下の育成指導状況や組織全体に対する貢献度、自己研さんやチャレンジ施行等の行動が評価されるのに対し、契約社員は組織全体に対する貢献によって業績が評価されることがないこと(①職務の内容の相違)、正社員には配転が予定されている(ただし新人事制度での正社員は転居を伴わない範囲に限定)のに対し、契約社員は人事異動が行われないこと(②配置変更の範囲の相違)、契約社員には正社員登用制度が設けられていること(③その他の事情)、といった相違があることは認定しました。もっとも、郵便業務に従事する契約社員には、更新を繰り返して継続的に勤務する者が存在しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれていることから、有給病気休暇の目的(継続的な雇用確保)は、契約社員においても同様に妥当するものといえ、病気休暇に有給・無給の差異を設けることは不合理であると判断しました。

各最高裁判決において結論に差が出た理由

大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件判決と日本郵政事件判決とで結論が異なったのは、前二者が賞与、退職金という基本的な労働条件の差異に関する判断であるのに対し、日本郵政事件は、病気休暇における有給・無給の差異に関する判断という事案の差が、一つの理由であると考えられます。休暇における有給・無給、あるいは各種手当の有無は、その支給目的に照らして、正社員と非正規社員に差異を設ける合理的な理由があるかどうかを検討することになり、支給目的の内容次第で、格差が不合理であると認定される場合も多いものといえます。一方、賞与や退職金は、基本給と連動していることが一般的で、その制度設計は企業の裁量が大きく、裁判所は、複雑な人事考課制度に立ち入って格差を不合理であると認定することには困難を伴うことが少なくないものと考えられます。

実務における対応

企業としては、正規・非正規社員との間、特に同一の業務に従事するこれら社員の間で、待遇格差を設ける場合は、これら社員の業務の内容や残業時間(休日・深夜労働の有無)、臨時対応の業務、部下の人数や部下に対する指導、決裁権限の範囲、業績目標やそれに対する責任などに差異があるか、その差異が人事考課に反映されるか(①職務の内容の相違)、職務変更や転勤等に差異があるか(②配置変更の範囲の相違)、正社員登用制度の有無、労使慣行、経営状況(③その他の事情)等を総合的に考慮し、不合理な格差となっていないか否かを慎重に検討する必要があります。

ただ、比較的新しい論点でもあり、先に述べた(改正前)労働契約法20条(パートタイム・有期雇用労働法8条)の解釈に関する裁判例は、なお出されることが予測されることから、裁判の動向等をウオッチしたうえで対応していくことでも遅くはないものと考えます。

(文責・上田 啓子

03-6272-6918