京橋・宝町法律事務所

相続問題-「使途不明金」の問題について

日ごろ,相続のご相談をお受けすることも多いのですが,その中でも良くご相談を受ける「使途不明金」の問題についてまとめてみました。

例えば,このようなケースです。

A(女性)さんは既に夫を亡くしていたが,お子さんが3人(X,Y,Z)いて,その中の一人(X)と同居していた。Aは年を取るごとに病気がちとなり,最後は寝たきりで意識もあまりハッキリしない状態となったが,亡くなる間際まで,子であるXは母親Aの介護をし,Aの預金等の財産管理もしていた。その後,Aは亡くなり,Aの遺産(自宅の土地・建物,銀行預金,株券など)を相続人である子ども3人(X,Y,Z)で分けることになった。そこで,相続人の一人であるYは,Xから亡母A名義の銀行預金の残高の報告を受けたが,Yが想像した額よりもはるかに少なかった。不審に思ったYさんは,その銀行に問い合わせ,通帳の履歴を開示してもらった。すると,Aが亡くなる2,3年前ころから,時々高額のお金が引き出されていることが分かった。Yは,Xに対して,引き出されたお金の使い途をハッキリ説明するよう求めたが,Xは,Aの治療費などに使ったなどと話すだけで,明確に説明することがなかった。Yとしては,本来預金はもっとたくさんあるはずで,遺産の額はもっと大きいと主張し,もしかしてXが着服したのではないか?と疑問をもっている。他方,Xは,Aの治療費などのため多少お金を多く引き出したが,X自身のフトコロに入れたことは絶対ないと主張している。

いわゆる「使途不明金」の問題であり,良くご相談を受けるケースです。

このようなケースであっても,XとYとの間で話し合い,多少は双方が譲り合って,預金の額について合意が出来れば問題は解決です。しかし,なかなか当事者同士では話がつかず,さらに感情的な問題もからみあい,解決できないというケースもままあります。

この場合,どのようにして問題を解決すべきでしょうか。方法は2つあります。

家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる

Aの遺産は,問題の預金だけではなく,不動産と株券もありますから,これらの分け方も相続人であるX・Y・Zが話し合って決めなければなりません。そこで,Yとしては,家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て,裁判所が間に入る形でAのすべての遺産の分け方につきX・Zと協議することができます。

もっとも,問題の預金の点について遺産分割調停には限界があります。もちろん,調停の場で,YはXに対して,預金の引き出し額についての説明を求めることができ,Xはこれに答えることになりますが,YがXの説明にやはり納得できず,XとYとで使途不明金の問題について合意に至らない場合,結局,遺産分割調停においては,使途不明金の問題は「ない」という前提で,現時点の預金残高を前提に調停を進めるということになってしまうのです。Yがどうしても納得できない場合,家庭裁判所は,Yに対して,地方裁判所等に訴訟(後に述べる不当利得返還請求訴訟あるいは不法行為に基づく損害賠償請求訴訟)を起こしそこで決着して下さいと促すことになります(「遺産分割事件処理の実情と課題」別冊判例タイムズ1137号・92頁参照)。

私は,個人的には,家庭裁判所の調停手続に付随して,家庭裁判所自身が使途不明金問題のような点について確定的に決定できる手続があればなあとよく思うのですが,残念ながら現在そのような制度はありません。

Yとしては,Xの言い分に従い適当なところで折り合いを付けて調停を進めるか,使途不明金の問題についてだけ別途地方裁判所等に訴訟を起こし,そこで解決を図るかを迫られることになります。

地方裁判所等への訴訟提起

遺産に関する問題が専ら使途不明金の問題だけであるというような場合,最初から,地方裁判所等に対する訴訟提起を行ったほうが早いかも知れません。上記のとおり,調停を起こしても,Xと合意が得られなければ,調停自体は使途不明金問題は「ない」ものとして進んでしまい,これを明らかにしようとすれば地方裁判所等に訴訟を起こさないとならず,二度手間だからです。

今回のような使途不明金案件の場合,預金の引き出し額について疑問を持っている相続人(本件ではY)が,引き出していた者(本件ではX)に対して,不当利得(ふとうりとく)返還請求訴訟,あるいは,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を地方裁判所(額によっては簡易裁判所)に提起し,裁判の中で問題を解決することになります。裁判手続においても「和解」により(裁判官もこの種の事案では和解を勧告してくることが多いです),当事者同士が話し合って解決することも多いですが,和解ができなければ,最終的に裁判所が判決により決めることとなります。

以上,若干長くなりましたが,使途不明金問題に関してお書きしました。この種のトラブルを解決するためには,遺産分割調停をすべきなのか普通の訴訟をすべきなのか,それらの手続はどうなっているのか,どのような証拠をどのタイミングで出すのかなど,法律的知識や作戦もかなり高度なものが要求されます。弁護士に相談されることを強くお勧めする次第です。

(文責:梅本 寛人

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