京橋・宝町法律事務所

離婚に伴う慰謝料請求が遅滞に陥る時点

離婚/相続ニュースレター

夫婦が離婚した場合において、離婚原因を作った配偶者(典型的には不貞行為や暴力など。この原因のある配偶者のことを「有責配偶者」といいます)は、相手方配偶者に対し、その精神的苦痛についての損害賠償(慰謝料)を支払わなければならないことがあります。この損害賠償義務は、いつから遅滞に陥るのか、すなわち、いつの時点からの遅延損害金を支払う必要があるのかについて、最高裁の判断がなされましたのでご紹介します。

問題となったケース

X(上告人)とY(被上告人)は、平成16年11月に結婚し、子どもを二人もうけましたが、平成29年3月に別居しました。その後、Xは、Yに対して離婚訴訟を起こし、Yは、反訴として、Xに対し、離婚を請求し、また、不法行為に基づき、離婚に伴う慰謝料及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めました。

原審(大阪高裁)の判断

大阪高裁(大阪高裁令和2年9月3日判決)は、Yの離婚請求を認め、また、慰謝料請求については120万円の限度で認めこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求も認めました。

遅延損害金については、Yの慰謝料請求は、XがYとの婚姻関係を破綻させたことに責任があることを前提とするものであるところ、上記婚姻関係が破綻した時は、改正民法(平成29年法律第44号)の施行日である令和2年4月1日より前であると認められるから、上記の慰謝料としてXが負担すべき損害賠償債務の遅延損害金の利率は、改正前の民法所定の年5分であるとしました。

最高裁の判断

最高裁(最高裁令和4年1月28日第二小法廷判決)は、大阪高裁の判断を否定し、次のとおり判断しました。

離婚に伴う慰謝料請求は、夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり、このような損害は、離婚が成立して初めて評価されるものであるから、その請求権は、当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。そして、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく、遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。したがって、離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
以上によれば、離婚に伴う慰謝料として上告人が負担すべき損害賠償債務は、離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥るというべきである。したがって、改正法の施行日前に上告人が遅滞の責任を負った(改正法附則17条3項参照)ということはできず、上記債務の遅延損害金の利率は、改正法による改正後の民法404条2項所定の年3パーセントである。

判決のポイント

「離婚に伴う慰謝料」について、大阪高裁は、慰謝料請求は「X(=有責配偶者)がYとの婚姻関係を破綻させたことに責任があることを前提」としており、破綻の時における遅延損害金の利率を適用すべきとしたのですが、最高裁は、「夫婦の一方が、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるもの」であり、「このような損害は、離婚が成立して初めて評価される」としています。大阪高裁は、Xの不法行為時がいつかという点に着目して破綻時から遅滞に陥るとしたものとも考えられますが、最高裁は、損害の発生時期に着目して離婚が成立した時点から遅滞に陥るものとしたとも考えられます。

たまたま、破綻時と離婚成立時との間に、改正民法の施行日が挟まっており、いずれとするかで遅延損害金の利率も変わってしまう(破綻時なら5%、離婚成立時なら3%)というケースであったため、かなりシビアに争われたのではないかとも想像される事件でした。

(文責・梅本 寛人

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