京橋・宝町法律事務所

フォントと著作権

このたび当事務所のWEBサイトをリニューアルいたしました。

自慢ではありませんが,本サイトは,購入したテンプレートをもとに私がカスタマイズして作成したものです。以前の当事務所サイトも,某社の「ホームページ」作成ソフトにより,私が独立直後の時間のある(暇な?)ときに,見よう見まねで作成したものでしたが,今回はWordpressにより作成をいたしました。

ところで,お気づきかとも思いますが,本サイトは,本文のフォントに明朝体を使用しております(だったのですが,本文はゴシック体に改め,見だし等の一部に明朝体を使用しております。注:現在は、明朝体は全く使用していません。)。今回はこのフォントと著作権にまつわるテーマについて書いてみたいと思います。

フォント,すなわち印刷用書体(つまり「活字」)に著作権が成立するのか,という点は以前は争われた時期もありましたが,最高裁平成12年9月7日判決が次のように判断し,実務上は一応の決着をみています。

「著作権法2条1項1号は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定めるところ、印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。この点につき、印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり(著作権法19条ないし21条、27条)、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することになる。また、印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。」

つまり,最高裁は,フォントについて,原則として著作権が成立する「著作物」ではないが,
① 従来の書体と比較して顕著な独創性を有しており,
② 美的にも優れた特徴を有している
ならば,「著作物」として著作権が成立する,としました。

このように限定をした理由は,上記判決も示しているとおり,書体自体はそもそも独創性を有する余地に乏しいことと,著作権を成立させてしまうと一々著作権者の許諾を得なければならず混乱する,ということです。これは,考えてみれば当然のことで,フォントに著作権が一般に成立するとしてしまうと,かえって自由な表現が阻害され,言語空間が極めて窮屈なものとなってしまいます。こうして,最高裁は,フォントに著作権が成立する場合を上記のとおり限定していますから,実際問題として,最高裁の上記2つの要件を充たし,フォントそれ自体に著作権が成立する場合はごく限られた場合であろう,との指摘もなされています。

もっとも,フォントの制作には,多大な労力と費用が必要な反面,著作権による保護が期待できず,模倣が極めて容易ということになると,フォントの制作会社としては,たまったものではないと思われます。もちろん,フォントのプログラム自体をそのまま複製する等の行為は,プログラムの著作物についての著作権侵害ということもできますし,適切な利用規約等を当初から設定し,規約違反での使用形態について責任を追及するということは可能です。そして,立法論としては,フォントの保護に関する法整備を行うことも求められているといえるでしょう。

(文責:梅本 寛人

03-6272-6918