京橋・宝町法律事務所

公益法人の役員報酬の決定方法

今回は、公益法人における役員(ここでは、理事と監事)の報酬の決定方法等について解説したいと思います。

関係法令・ガイドライン・モデル定款

まずは、関係する法令等がどうなっているのか確認しましょう。

○一般法人法89条(財団は197条で準用)
(理事の報酬等)
第89条 理事の報酬等(報酬、賞与その他の職務執行の対価として一般社団法人等から受ける財産上の利益をいう。以下同じ。)は、定款にその額を定めていないときは、社員総会(評議員会)の決議によって定める。
○一般法人法105条(財団は197条で準用)
(監事の報酬等)
第105条 監事の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、社員総会(評議員会)の決議によって定める。
2 監事が2人以上ある場合において、各監事の報酬等について定款の定め又は社員総会(評議員会)の決議がないときは、当該報酬等は、前項の報酬等の範囲内において、監事の協議によって定める。
3 監事は、社員総会(評議員会)において、監事の報酬等について意見を述べることができる。
○公益法人認定法5条14号
(公益認定の基準)
第5条 行政庁は、前条の認定(以下「公益認定」という。)の申請をした一般社団法人又は一般財団法人が次に掲げる基準に適合すると認めるときは、当該法人について公益認定をするものとする。
①~⑬ 略
⑭ その理事、監事及び評議員に対する報酬等(報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及び退職手当をいう。以下同じ。)について、内閣府令で定めるところにより、民間事業者の役員の報酬等及び従業員の給与、当該法人の経理の状況その他の事情を考慮して、不当に高額なものとならないような支給の基準を定めているものであること。
⑮以下略
○認定法20条
(報酬等)
第20条 公益法人は、第5条第14号に規定する報酬等の支給の基準に従って、その理事、監事及び評議員に対する報酬等を支給しなければならない。
○認定法施行規則3条
(報酬等の支給の基準に定める事項)
第3条 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年法律第49号。以下「法」という。)第5条第14号に規定する理事、監事及び評議員(以下「理事等」という。)に対する報酬等の支給の基準においては、理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分及びその額の算定方法並びに支給の方法及び形態に関する事項を定めるものとする。

公益法人の理事又は監事に対する報酬等は、定款にその額を定める必要があり、その定めがないときは、社員総会(財団の場合は評議員会)の決議によってその額を定める必要があります(一般法人法89条、105条、197条)。この趣旨は、判例ないし学説上、理事の報酬についてはいわゆる「お手盛り」の防止のため、監事の報酬については理事からの独立性を担保するため、と解されています。
以上が、公益法人の役員報酬の決定についての議論の出発点です。
なお、実務上は、定款に理事又は監事の報酬額を定める例は稀であり、社員総会(評議員会)の決議により報酬額を定めることが大半であると思われます。

他方で、公益法人においては、役員の報酬等の「支給の基準」を定める必要があり、その支給基準に従って報酬等を支給する必要があります(公益法人認定法5条14号、20条)。支給基準において具体的に何を定めるのかについては、公益法人認定法施行規則3条が規定しています。この点が、株式会社における報酬規制と大いに異なるところであり、ある意味、制度の分かりにくさを招いている主たる要素でもあります。

さらに、この支給基準について、「公益認定等ガイドライン(令和6年12月版)」では以下のように詳細な解説がなされています(内閣府公益認定等委員会等「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」令和6年12月改訂・96頁以下より抜粋。なお、重要な部分は筆者にて赤字としました。)。

ア 支給の基準について
(ⅰ) 報酬等について
 理事等に対する報酬等とは、報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産上の利益及び退職手当と定められていることから(認定法第5条第14号)、理事に対して、交通費実費相当額をお車代として支給する場合には、報酬等には該当しない。「お車代」などの名称の如何を問わず、実費相当額を超えて支給する場合には、支給基準に盛り込むことが必要である。
 役員が職員を兼務する場合において、職員としての勤務の対価として相応の給与を受ける場合には、当該給与は、報酬等に該当しない。
(ⅱ) 無報酬について
 報酬等の支給基準を定めるといっても、報酬等の支給を義務付ける趣旨ではなく、無報酬でも問題はない。その場合は、報酬等の支給基準において無報酬である旨を定めることになる。
 非常勤理事や評議員に対し、職務遂行の対価として、各々の責任に見合った報酬等を支給することも可能である。職務遂行の対価として支給する日当や、交通費実費相当額を超えて支給するお車代等は、本基準でいう報酬等に含まれる。
 定款において無報酬と定めている場合には、別途支給基準を定める必要性はない。定款において「原則」無報酬であるとしながらも、常勤役員等に対して支給することも「できる」と規定する場合には、支給する場合について定めておくことが必要である。定款で支給ができる旨の規定はあるものの、当面の間は役員報酬を支給する予定がないような場合は、支給基準において無報酬である旨を定める(この場合は、将来支給することとなった場合には支給基準の改訂が必要になる。)。
(ⅲ) 報酬等の区分、額の算定方法、支給の方法及び支給の形態
 理事等に対する報酬等の支給の基準においては、理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分及びその額の算定方法並びに支給の方法及び形態に関する事項を定めるものとされている(認定規則第3条)。「理事の報酬額は理事長が理事会の承認を得て定める」のような支給基準とすることは報酬科目や算定方法が明らかにされず、公益認定基準を満たしたとは認められない。
 なお、報酬等の額については、理事が自らの報酬等の額を定めることによるお手盛りを防止する観点から、社員総会又は評議員会の決議により定めることが必要である(法人法第89条)。したがって、理事長が理事の個々の報酬等の額を決定することは認められない。
〇 理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分
 理事等の勤務形態に応じた報酬等の区分とは、常勤役員、非常勤役員の報酬の別等をいい、例えば、常勤理事への月例報酬、非常勤理事への理事会等への出席の都度支払う日当等になる。
〇 その額の算定方法
 その額の算定方法とは、報酬等の算定の基礎となる額、役職、在職年数等により構成される基準等をいい、どのような過程をたどってその額が算定されるかが第三者にとって理解できるものとなっている必要がある。
 例えば、役職に応じた一人当たりの上限額を定めたうえ、各理事の具体的な報酬金額については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するといった規定は、許容される(国等他団体の俸給表等を準用している場合、準用する給与規程(該当部分の抜粋も可)を支給基準の別紙と位置付け、支給基準と一体のものとして行政庁に提出することになる。)。
 一方、社員総会(評議員会)の決議によって定められた総額の範囲内において決定するという規定や、単に職員給与規程に定める職員の支給基準に準じて支給するというだけの規定では、どのような算定過程から具体的な報酬額が決定されるのかを第三者が理解することは困難であり、公益認定基準を満たさないものと考えられる。
 また、退職慰労金について、退職時の月例報酬に在職年数に応じた支給率を乗じて算出した額を上限に各理事については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するという方法も許容されるものと考えられる。
 なお、いずれの報酬についても、不当に高額なものとならないよう支給の基準を定める必要がある。
〇 支給の方法及び形態
 支給の方法とは、支給の時期(毎月か出席の都度か、各月又は各年のいつ頃か)や支給の手段(銀行振込みなど)等をいう。 支給の形態とは、現金・現物の別等をいう。ただし、報酬額につき金額の記載しかないなど金銭支給であることが客観的に明らかな場合は、「現金」等の記載は特段必要ない。

以上を受けて、内閣府のモデル定款(「公益認定のための「定款」について」令和6年12月改訂版)では、以下の定款の例が挙げられています(同・15頁、45頁。会計監査人に関する記載例は省略。Aが報酬支給の場合、Bが原則無報酬・常勤役員には報酬支給可の条項例です。)。

○公益社団法人の場合
(役員の報酬等)
(A)
第27条 理事及び監事に対して、<例:社員総会において別に定める総額の範囲内で、社員総会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。
(B)
第27条 理事及び監事は、無報酬とする。ただし、常勤の理事及び監事に対しては、<例:社員総会において別に定める総額の範囲内で、社員総会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。
○公益財団法人の場合
(役員の報酬等)
(A)
第27条 理事及び監事に対して、<例:評議員会において別に定める総額の範囲内で、評議員会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。
(B)
第27条 理事及び監事は、無報酬とする。ただし、常勤の理事及び監事に対しては、<例:評議員会において別に定める総額の範囲内で、評議員会において別に定める報酬等の支給の基準に従って算定した額を>報酬等として支給することができる。

関係する法令、ガイドライン、モデル定款の状況は以上のとおりですが、公益法人においては、役員報酬の額をどのように決定するのかという「手続の問題」(これは、前記の一般法人法の規定のとおり、定款あるいは社員総会(評議員会)の決議によって定めます。これは、株式会社においても基本的に同じです。)と、どのように役員報酬の支給基準を定めるのかという「支給基準の内容の問題」という二つの論点を同時に検討する必要があるため、制度の理解がなかなか難しく、議論が錯綜している嫌いがあります。

ざっくり整理すれば、先に挙げた法人法89条、同法105条及び内閣府のモデル定款は、「手続の問題」を規律するものであるのに対し、公益法人認定法5条14号、同法施行規則3条は「支給基準の内容の問題」を規律するものといえます。他方で、公益認定等ガイドラインは、公益法人認定法の該当条文の解説文書という性格から、基本的に「支給基準の内容の問題」を規律するものですが、一部「手続の問題」についても言及しているものといえるでしょう。

支給基準の内容の問題

公益法人の実務上、役員報酬の支給基準は、「役員の報酬等及び費用に関する規程」「役員及び評議員の報酬等並びに費用に関する規程」といった名称で「規程」形式で定められることが多いといえます。

この「役員報酬規程」の内容(規定ぶり)は、前記公益法人認定法5条14号、同法施行規則3条及び公益認定等ガイドラインの記載に沿って、適正に定める必要があります。ところが、前記のとおり、関係法令等の理解がなかなか難しい面もあってか、行政庁から指摘を受けることが多い項目となっているのが実情です。

役員報酬規程において、例えば、報酬額を固定的に定める(理事長:月額○○万円、理事:月額○○万円、監事:月額○○万円)ことが可能であれば、報酬額の内容も決定方法も明瞭であり、基準として適正なものといえるでしょう。しかし、そのように固定的に報酬額を定めることは稀であり、実務的には、報酬の上限額を定めることが多いと思われます。その場合に許される限界は、おそらく「役職に応じた一人当たりの上限額を定めたうえ、各理事の具体的な報酬金額については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するといった規定は、許容される」(前記公益認定等ガイドライン)であると考えられます(なお、監事については、総額を社員総会(評議員会)で決定することを前提に、個々の監事の報酬額を監事の協議によって定めるとすることも可能と考えられます。後記のFAQも参照)。

○役員報酬規程の具体例
(報酬の額の決定)
第○条 理事1人当たりの年間報酬額の上限額は、別表のとおりとし、各理事の報酬額は、その上限額の範囲内で、理事長が理事会の承認を経て定める。
2 監事1人当たりの年間報酬額の上限額は、別表のとおりとし、各監事の報酬額は、その上限額の範囲内で、監事の協議によって定める。

ところで、この支給基準(役員報酬規程)を理事会の決議によって改廃することはできるのでしょうか。

筆者がこれまで見てきた公益法人においては、役員報酬規程の改廃は、社員総会(評議員会)の決議事項としている例ばかりであり、理事会決議事項としている例は見たことがありません。しかし、理事会決議事項とすることも法的には可能です。この点、内閣府が公表している「公益法人制度等に関するよくある質問(FAQ)」令和7年6月版の問Ⅱ-3-⑦(報酬等支給基準)に以下の記載があります。

問Ⅱ-3-⑦(報酬等支給基準)
報酬等支給基準は理事会で決定する必要がありますか。

1 公益法人の理事等の報酬等が、民間事業者の役員の報酬等や公益法人の経理の状況に照らし、不当に高額な場合には、法人の非営利性を潜脱するおそれがあり、適当ではありません。このため、理事等に対する報酬等が不当に高額なものとならないよう支給の基準を定めていることが公益認定の基準とされています(公益法人認定法第5条第15号、ガイドライン第3章第1(13)参照)。
2 この報酬等支給基準については、理事、監事に係る分については①社員総会又は評議員会で決定する方法と、②社員総会又は評議員会においては、報酬等の総額を定めることとし、支給基準は理事については理事会で、監事が複数いる場合は監事の協議によって決定する方法の2通りがあり得ます(一般社団・財団法人法第89条及び第105条)。理事会が自分たちの報酬等の額を自由に定めることによるお手盛りを防止する趣旨から理事会だけで自由に決定することはできませんが、社員総会又は評議員会において報酬等の総額を定めている場合には、具体的な金額の算定方法等に係る基準について理事会又は監事の協議で決定することは可能です。
3 一方、評議員は、理事及び理事会を監督・牽制する役割を担っており、監督される側である理事からの独立性を確保する必要があります。このため、評議員の報酬等の額は、定款で定めることとされており(一般社団・財団法人法第196条)、その支給基準についても、定款又は評議員会のいずれかで決定することになります。

上記のFAQの記載ですが、理解できますでしょうか?
率直にいって、私も誤解していたところですが、一般法人法89条(105条)は、報酬の「額」を社員総会(評議員会)の決議によって定めよとしているものの、「支給の基準」を社員総会(評議員会)の決議で定めよ、とまでは規定していません。また、公益法人認定法等でも、公益法人は「支給の基準」を定めることが必要ですが、それを社員総会(評議員会)の決議を経て定めよとまでは規定していません。ゆえに、報酬の(総)額は社員総会(評議員会)で決議されていることを前提に、「支給基準」につき、理事については理事会で、監事については監事の協議で定めることも可能なのです。

手続の問題

冒頭に記載したとおり、公益法人においては、役員報酬の額につき、定款に定めるか、定款に定めがないときは社員総会(評議員会)の決議によって定める必要があり(一般法人法89条、105条、197条)、これが議論の出発点です。

そして、公益法人においては、役員報酬の「支給の基準」を定めることも必要であり、報酬はこの「支給の基準」に従って支給される必要があります(公益法人認定法20条)。

ということで、要するに、公益法人において、役員に報酬を支給するためには、

  1.  役員報酬の「支給の基準」が適正に定められていること
  2.  定款又は社員総会(評議員会)の決議によって、報酬(総)額が定められていること

以上が必要となります。

さて、問題です。役員報酬の支給基準が社員総会(評議員会)の決議を経て定められている場合、別途、社員総会(評議員会)の決議によって役員報酬の額を決定する必要はあるのでしょうか?
例えば、社員総会(評議員会)の決議を経て定められた役員報酬の支給基準で、「理事(1人当たり)の報酬:年額200万円(上限額)」と定められているとします。この場合に、何某理事の報酬額を「年額100万円」と決定することについて、社員総会(評議員会)の決議は別途必要なのでしょうか?

「支給の基準」を社員総会(評議員会)の決議によって定めたからといって、当然に、「報酬額」について社員総会(評議員会)の決議がなされたものとはいえません。とすると、何某理事の報酬を「年額100万円」とすることについて、社員総会(評議員会)の決議が別途必要、ということになりそうです。

しかし、先ほど挙げた役員報酬規程の規定例のように「理事1人当たりの年間報酬額の上限額は、別表のとおりとし、各理事の報酬額は、その上限額の範囲内で、理事長が理事会の承認を経て定める。」とある場合はどうでしょうか?このような規定があるにもかかわらず、法律上、社員総会(評議員会)の決議が必要であると解するのは、結局、この規定が意味をなさないものとなり不合理であるといえます。
また、社員総会(評議員会)においては、役員の報酬の総額を決議すれば足り、具体的な報酬額の決定は理事会や監事の協議に委ねても良いという考え方からすれば、役員報酬の「支給の基準」の決議という形ではあるものの、それが役員報酬の総額も決定しているものと評価できるのであれば、後は、支給基準に定められた手続に従って報酬を支給するとしても何ら問題はないものといえるでしょう。

以上からすれば、上記の何某理事の「月額100万円」の決定について、別途、社員総会(評議員会)の決議を経る必要はないものと考えられます。

他方で、役員報酬の支給基準の内容から、役員の報酬の総額が読み取れない場合、あるいは、そもそも、役員報酬の支給基準につき社員総会(評議員会)の決議を経ずに定められている場合等では、報酬(総)額の決定につき、別途、社員総会(評議員会)の決議が必要であると考えられます。

まとめ

以上、公益法人の役員報酬の決定について、いろいろと記載しましたが、なかなかスッキリと理解できない論点であることは否めません。本稿が、制度の理解の一助になれば幸いです。なお、公益法人の役員報酬を巡っては、役員報酬の支給基準の公表、高額な報酬の場合の情報公開等、今般の公益法人認定法改正により制度が変わったものもありますが、この辺りについては、改めてニュースレターを作成したいと考えています。

本稿情報

執筆者
梅本 寛人
関連分野
公益法人・非営利法人
03-6272-6918