京橋・宝町法律事務所

公益法人・一般法人の役員の権限

公益法人制度改革により、役員の「責任」が強化されたということは良く議論されますが、「責任」と表裏一体の関係にある「権限」も新制度では大きく変更されています。 本コラムは、公益法人と一般法人(理事会設置一般社団法人と一般財団法人を想定)の役員(ここでは主に理事を想定)の権限について、お話ししたいと思います。

公益法人・一般法人の役員の権限といっても、基本的な発想は、株式会社における代表取締役、取締役、取締役会の関係と同一です(会社法をモデルとして制度が構築されているため)。

代表権

代表理事

代表理事(法人によっては「会長」「理事長」と称される理事)は、理事会が理事の中から選定します(一般法人法90Ⅱ③、Ⅲ、197)。この代表理事には法人の代表権があります(法人法77Ⅰ、Ⅳ、197)。また、業務執行権もあります(法人法91Ⅰ①、197)。

代表権の委任

代表理事が、個別の行為に関する代表権を他の理事に委任することは許されます。都度、委任すること(授権行為を行うこと)でも定款や諸規程(職務分掌規程等)の定めによって授権することでも構いません。なお、代表理事の代表権に加えた制限を法人外部の善意の第三者に対抗することはできません(法人法77Ⅴ、197)。どういうことかというと、代表理事の代表権の行使について、法人内部で一定の制限(理事会決議が必要など)を加えても、代表理事と取引を行った者が、その事実を知らない場合は、代表理事の行った行為のとおりに法人とその取引相手との間で効力が生ずる、ということです。

業務執行権

「業務執行」の定義

「株式会社がその目的を達成するためには、事業戦略を決定し、数量目標を設定し、目標達成のための計画を練り、経営資源を購入・配分し、製品を販売し、雇用した従業員を管理しなければならない。それらに関する意思決定を会社法は「業務の決定」または「業務執行の決定」(会社法348条2項・362条2項1号4項・418条1号)と呼び、その執行(法律行為・事実行為の双方を含む)を「業務(の)執行」(会社法348条1項・363条1項・415条・418条2号)と呼んでいる。」(江頭憲治郎「株式会社法」第4版・356頁。有斐閣)。

「「法人の業務の執行」とは、法人の何らかの事務を行うということではなく、その法人の目的たる事業に関する諸般の事務(法人の目的を実現するため、その行う事業の具体的な内容や運営方法を検討して、これを決定するとともに、事務局職員等の管理を行うこと等)を処理することをいいます。具体的には、法人の事務所等の取得・賃借、職員の雇入れ、原材料や商品等の買入れ、資金の借入れなどの法律行為全般に及ぶものとされます。また、履行の催告、債権譲渡の通知等の準法律行為及び帳簿の作成・記録・使用人の指揮・監督などの事実行為も含みます。・・」(渋谷幸夫「一般社団・財団法人 公益社団・財団法人の理事会Q&A精選100」増補改訂版・21頁。全国公益法人協会)。

以上が、代表的な文献による「業務執行」の説明です。

具体的に、法人が行っている個々のある行為が、「業務執行」行為なのか、そうではないのかを評価するとなると、微妙な判断となる場合も多いと思われます。例えば、法人が、事務局として使用するオフィスの賃貸借契約を締結する、事務局職員を採用する、銀行から借り入れをする等は、上記の定義からも完全に業務執行行為であり、また、対外的に契約(賃貸借契約、雇用契約、金銭消費貸借契約)を結ぶことですから、代表権のある代表理事、あるいは、当該行為に関して代表権を委任された特定の理事の決裁により、契約書を交わすということになります。他方、法人内において、公益目的事業を具体的に実施し、これを担当する委員会を設け、その中で、事業を実施していくことは業務執行行為といえる場合が多いでしょうが、例えば「コンプライアンス委員会」といった総務的事項を審議する委員会で、定款等の改定や法令の研究をするといった場合は、業務執行行為とまではいえないと思われます。

業務執行権を有する理事とは

  • 代表理事(法人法91Ⅰ①、197)
  • 理事会決議で業務執行理事と選定されたもの(法人法91条Ⅰ②、197。いわゆる「執行理事」)

に業務執行権があるのが原則です(法人法91条Ⅰ、197)。

この点、旧民法の公益法人では、理事全てに業務執行権のみならず代表権まであると規定されていました。現行一般法人法は、これを改め、株式会社法をモデルとして、理事会設置一般社団法人(公益法人では理事会必置)においては、代表理事に代表権と業務執行権、執行理事に業務執行権、他の理事(いわゆる「平理事」)には職務監督権のみ、というように権限を整理しました。ちなみに、理事会を設置していない一般社団法人では、従来どおり全ての理事に代表権が原則として認められます(「有限会社」がモデル)。

業務執行の決定

法人の業務執行事項のうち、比較的重要な事項や特に定款で定めた事項の決定は、理事会決議を経ることが必要です(法人法90Ⅳ)。このようにして理事会決議で決定された業務執行事項を、代表理事又は執行理事(若しくは,これらから特定の事項について業務執行権の委任を受けた理事)が、実際に「業務執行」する、という関係にあります。

他方で、上記の理事会決議を経て決定すべしと定められた事項以外は、代表理事又は執行理事の専決により、業務執行の内容を決定し、執行することとなります。

業務執行権の委任

代表理事又は執行理事が、特定の業務執行行為について、特定の理事に委任することは許されます。都度、委任すること(授権行為を行うこと)でも、定款や諸規程(職務分掌規程等)の定めによって授権することでも構いません。 一定規模以上の法人では、前述の「代表権」の委任も含め、業務執行事項についての権限分配(この事項はどの理事が担当するのか、委任するのか等)に関する役員の「職務分掌規程」を設けていることが通常です。このような規程を設けていない法人は、なるべく速やかに設けておくことをお勧めします。なお、平理事が、代表理事又は執行理事から委任を受け、特定の業務執行行為を行った場合、その当該理事も役員としての責任を追及される場面では「業務執行理事」に該当することとなります(法人法113条Ⅰ②ロの「当該一般社団法人の業務を執行した理事」に該当します。)。

例えば、ある平理事が、代表理事又は執行理事から、特定の公益目的事業の実施に関して委任を受け、諸々の事業を展開しているという場合、その公益目的事業に関して何らかの役員責任を追及される場面では、当該平理事は、上記の「業務執行理事」に該当する可能性があります。

権限に関して整理しておくこと

  1. まずは、上記の新制度における代表権、業務執行権、理事会の権限等を理解しておくことが重要です。
  2. すべての理事に代表権・業務執行権があるわけではないので、平理事であるのに、特定の業務執行行為に携わる者がある場合は、代表理事又は執行理事からの委任を受けておくよう制度的(「職務分掌規程」等の策定)に紐付けておく必要があります。
  3. なお、2のような場合は、代表理事又は執行理事の数を増やせば良いとの文献もありますが、そこまでしなくとも適切に「委任」を行うことにより、代表理事以下の指揮命令系統を明確にしておけば足りると思われます。

(文責:梅本 寛人

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