京橋・宝町法律事務所

公益法人に対する立入検査の実際

公益法人に対する立入検査がいよいよ本格的に実施されています。最近,内閣府公益認定等委員会から発表された「公益認定等委員会の活動状況 平成26年度」の27頁によりますと,平成26年度に実施された立入検査の件数は,内閣府実施分が553件,都道府県実施分が2,383件であり,前年度(平成25年度)と比較して大幅な伸びを示しています。今年度(平成27年度)の件数はまだ不明ですが,制度の本格的な運用が始まっていることからすれば,平成26年度並みかそれ以上の件数の立入検査が実施されているものと考えられます。

公益法人の皆様にとって,やはり,行政庁による立入検査は気になるところだと思います。

もっとも,結論から言ってしまいますと公益法人にまつわる「事業とカネ」がしっかりしていれば立入検査は恐れるに足りない,と私は考えています。要は,法令に準拠した日々の公益法人の運営が大切なのであり,日々の運営をおろそかにして付け焼き刃の「立入検査対策」をしても良い結果にはつながらないということを肝に銘じていただければと思います(その意味で,学生時代の試験対策と同じようなものです。日々の学習が大事であって一夜漬けで勉強しても良い点はとれないと・・)。

立入検査の準備

立入検査の実施は,各公益法人の皆様を所管する行政庁(内閣総理大臣か都道府県知事。いつも定期提出書類を提出している先です)の担当官からの一本の電話により始まります。この電話で,担当官は,立入検査を実施しますと通知してきます。細かな日程の調整(立ち会いを誰にするか等の関係で調整が必要になると思います)には応じてくれます(いくつか候補日をくれます)。その後,立入検査の日程が決まると行政庁から立入検査を実施する旨の正式な文書が送られてきます。そして,実施日までの間,公益法人は立入検査に対する準備を行うことになります。

検査に立ち会うのは,常勤の役員や総務・経理面を把握している方が適任でしょう。また,顧問税理士・顧問弁護士等の立ち会いも良いと思います(行政庁に事前に伝えれば顧問税理士等の立ち会いも許されます。※もっとも,最近は立ち会いが許されない例もあるようです。)。

準備としては,立ち会い者によるミーティング(内閣府からの「立入検査の考え方」などの資料を復習されると良いと思います)を行い,また,当日検査官に見てもらう資料を準備していくことになります。どのような資料を準備するかですが,事前に行政庁のほうから「こういった資料を用意してください」と指示のあるケースも多いです。概ね,事業報告書,決算書,各種帳簿,定款,諸規程,会議の議事録,事業関係の資料(パンフレット等)などです。

いよいよ検査当日

検査当日ですが,午前に検査官2名で来ることが多いようです(私が立ち会った検査では,1名の方は事業を中心に,もう1名の方は財務・経理を中心に質問されました)。

冒頭,公益法人側から法人の概要(主に事業面が中心になると思います)を説明することになります。

その後,午前・午後にかけて,検査官から次々と質問が飛んできますので,逐一答えていき,また関係資料も示していくことになります。

質問の内容としては,事業の実施形態,事業の内容,諸規程の整備内容,総会・評議員会・理事会の実施状況,議事録の記載内容,役員の状況,事務局職員の労使環境,財務内容,財産管理の状況(かなり細かい点も)などなど多岐にわたります。こう書いてしまうと「答えられなかったらどうしよう・・」と不安に感じられるかもしれませんが,すべての質問に完璧に答えられる法人はむしろ少数です。基本的には事実を素直に答えるほかはありません。その場合でも,検査官の姿勢は,公益法人に対する「あら探し」ではなく「民による公益の増進のため新公益法人が新制度に適切に対応できるよう支援する視点」(内閣府「監督の基本的考え方」)をもつというものですから,この際,検査官のアドバイスを受けるためにも現状を正確に伝えるべきだと思います。もとより,質問に対しては,先に書きましたとおり,日々の公益法人運営が適正なものであればスムーズに答えられるはずです。法令にしたがった運営がいかに大事かを再認識していただければと思います。

なお,検査官の質問のベースは,毎期公益法人が行政庁に提出している「定期提出書類」における各書類の記載内容をもとに「実際はどうなのか?」という視点でなされます。「定期提出書類」についても,事実を正確に反映したものを作成することが重要であるといえるでしょう。

検査が一通り終了したら,最後に検査官から本日の検査についての講評がなされます。

立入検査対策のポイント

私なりに立入検査対策のポイントをまとめますと,

  1. 日ごろから法令を意識した業務処理を行うこと
    →公益法人は中小企業(≒会社法無視の世界)とは違う。1か月の準備期間で慌てて取り繕うことはむしろ有害。
  2. お金まわりの管理は特に厳しくする
  3. 役員の意識改革

となります。

ガバナンスとコンプライアンスを確保しつつ(立入検査はそのためのチャンスでもあります),本来の公益目的事業に邁進すれば,公益法人制度は,ますます,国民の厚い信頼を得られるすばらしいものとなることでしょう。

以上,公益法人に対する立入検査に関して概観しましたが,詳しくご相談になりたい方は,こちらのページもご覧下さい。

(2020年9月1日更新)

(文責:梅本 寛人

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